とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

あの木は何を想うのか【内陸キャンプ旅2日目】

赤い空。黄色い太陽。黒い地平線。

オーストラリアの原色。

 

キャンプ旅の朝は早い。それまでどれだけ不健康な生活を送っていても、一度文明から離れてテントを立ててしまえば人の生活リズムは強制的に矯正されてしまう。つまり、夜暗くなればそれ以上の行動ができないので寝るし、朝には日が昇る前から鳥達の嬌声に起こされてしまうのだ。母なる大地と共生することで嬌声に矯正を強制されるわけである。おお。

地平線から昇る太陽を拝みながら湯を沸かす早朝の野営地。

テントから這い出て、冷え切った内陸の地面を焼き始めた太陽に挨拶をかわし、淡々とテントをひっくり返して底面の朝露を乾かす。湯を沸かし、スープを作る。世界は平和である。

誰もいない地上の星での撤退作業。

撤退作業をしていると、地平線の彼方から来た一台のトラックが目の前に停止して運転手のオッサンが声をかけてくれた。どこに向かうのかと問うので、Bouliaの方角へ向かうことを伝える。そっちなら大丈夫だ、逆方向は冠水していて沈んでいるから気を付けろよ、そんなことを叫びながらオッサンは反対側の地平線へと消えて行った。

内陸の車旅において給油は死活問題。Bouliaまで360km給油はできない。

燃料を満タンまで入れて、早々にボーリアの町を目指す。見渡す限り何もない道を走っていると、途中で牧場の溜め池周辺に群がる鳥の群れを発見。

「おっ!クマドリバトだ!」

T君が興奮気味に叫び、車は減速する。

クマドリバト、Flock Bronzewing(Phaps histrionica)。数百の大きな群れであった。

「こいつらは死ぬまでに見るべき鳥100選に入ってるんだよ!」

「数羽~数十羽の群れは見るけどここまで多いのは初めてだ!」

T君はテンションが上がると露骨なので、こちらを観察するのも面白いのである。

セキセイインコ (Melopsittacus undulatus)。小さな群れ。内陸に来た実感がわく。

前日の野営地であったCorfieldからBouliaは400km程度の距離なので、この日の日程は緩めである。道を横切る鳥を見るたびに車を停車させ、とにかく動物達を堪能していく。

オーストラリアヅル (Antigone rubicunda)

「お、エミューだ」

「子供連れてるな」

「親鳥だけフェンス潜り抜けて行ったぞ、あの巨体でどうやってんだ」

エミューは液体だからなぁ」

「Emu is liquid…それただのエミューオイルなんじゃ」

陽炎に揺れる大きな鳥。Dromaius novaehollandiae

動物が出たら停まり、腹が減ったら停まりの、気ままな旅。

地平線の真ん中にあったベンチで昼食。

きっとここが地球の中心だ。

午後3時頃には本日の目的地であるBoulia(ボーリア)のキャラバンパークに到着。早々にテントを設営して、とりあえず一服である。初日に買った氷がまだ溶け切っていないので、冷蔵庫内の炭酸飲料は冷たい。冷たさは至福。

オーストラリアの炭酸飲料といえばKirks。

陽が落ちるまではまだ時間があるのでテントを放置して車で周囲を散策。T君はハエ・紫外線対策も完璧な過激派装備で挑む。

見る人によってはアホの子、見る人によってはガチ装備でヤバい子。

T君を被写体にするのも楽しいのが内陸。

コシアカショウビン (Todiramphus pyrrhopygius)

オーストラリアチゴハヤブサ (Falco longipennis)。お立ち台状態。

遠くのほうでゆったり歩くヒトコブラクダ (Camelus dromedarius)。外来種

時間もあるので夕日が沈み行く姿をタイムラプス撮影しながらのんびりと夜を待つ。空が赤く染まり大地が漆黒に呑まれていく姿は、オーストラリアそのものの色だと思うのだ。

夕日を見る時間。人生を豊かにする時間。

あの木は何を思うのか。

ひとしきり哲学に思い耽た後で、設営地点に帰還。腹が減ったので飯の準備である。そして、飯の準備となれば出てくるのはサイコロである。神はサイコロを振らないが、飯ではサイコロを振るのだ。こちらは全く哲学的ではなかった。

我々のキッチンであり食卓であり作戦会議室。

「では本日もサイコロのほうをお願いします」

「はい分かりました、6番ですね?」

「5~6はマジでやめてほしい」

「えぇー」

「頼むから1を出してくれ!」

 

「ほいっ」

 

「「…っ!いや…どっちだ…!?!?」」

 

疑惑の判定。

「いや6でしょこれ!」

「これ6かぁ!?うーん…じゃあもう一回振って奇数なら5、偶数なら6で」

「ほい」

 

「「奇数!!」」

 

「助かっt…いや助かってなくねこれ」

本日もちゃんとした飯は食えません。