赤い空。黄色い太陽。黒い地平線。
オーストラリアの原色。
キャンプ旅の朝は早い。それまでどれだけ不健康な生活を送っていても、一度文明から離れてテントを立ててしまえば人の生活リズムは強制的に矯正されてしまう。つまり、夜暗くなればそれ以上の行動ができないので寝るし、朝には日が昇る前から鳥達の嬌声に起こされてしまうのだ。母なる大地と共生することで嬌声に矯正を強制されるわけである。おお。
テントから這い出て、冷え切った内陸の地面を焼き始めた太陽に挨拶をかわし、淡々とテントをひっくり返して底面の朝露を乾かす。湯を沸かし、スープを作る。世界は平和である。
撤退作業をしていると、地平線の彼方から来た一台のトラックが目の前に停止して運転手のオッサンが声をかけてくれた。どこに向かうのかと問うので、Bouliaの方角へ向かうことを伝える。そっちなら大丈夫だ、逆方向は冠水していて沈んでいるから気を付けろよ、そんなことを叫びながらオッサンは反対側の地平線へと消えて行った。
燃料を満タンまで入れて、早々にボーリアの町を目指す。見渡す限り何もない道を走っていると、途中で牧場の溜め池周辺に群がる鳥の群れを発見。
「おっ!クマドリバトだ!」
T君が興奮気味に叫び、車は減速する。
「こいつらは死ぬまでに見るべき鳥100選に入ってるんだよ!」
「数羽~数十羽の群れは見るけどここまで多いのは初めてだ!」
T君はテンションが上がると露骨なので、こちらを観察するのも面白いのである。
前日の野営地であったCorfieldからBouliaは400km程度の距離なので、この日の日程は緩めである。道を横切る鳥を見るたびに車を停車させ、とにかく動物達を堪能していく。
「お、エミューだ」
「子供連れてるな」
「親鳥だけフェンス潜り抜けて行ったぞ、あの巨体でどうやってんだ」
「エミューは液体だからなぁ」
「Emu is liquid…それただのエミューオイルなんじゃ」
動物が出たら停まり、腹が減ったら停まりの、気ままな旅。
午後3時頃には本日の目的地であるBoulia(ボーリア)のキャラバンパークに到着。早々にテントを設営して、とりあえず一服である。初日に買った氷がまだ溶け切っていないので、冷蔵庫内の炭酸飲料は冷たい。冷たさは至福。
陽が落ちるまではまだ時間があるのでテントを放置して車で周囲を散策。T君はハエ・紫外線対策も完璧な過激派装備で挑む。
時間もあるので夕日が沈み行く姿をタイムラプス撮影しながらのんびりと夜を待つ。空が赤く染まり大地が漆黒に呑まれていく姿は、オーストラリアそのものの色だと思うのだ。
ひとしきり哲学に思い耽た後で、設営地点に帰還。腹が減ったので飯の準備である。そして、飯の準備となれば出てくるのはサイコロである。神はサイコロを振らないが、飯ではサイコロを振るのだ。こちらは全く哲学的ではなかった。
「では本日もサイコロのほうをお願いします」
「はい分かりました、6番ですね?」
「5~6はマジでやめてほしい」
「えぇー」
「頼むから1を出してくれ!」
「ほいっ」
「「…っ!いや…どっちだ…!?!?」」
「いや6でしょこれ!」
「これ6かぁ!?うーん…じゃあもう一回振って奇数なら5、偶数なら6で」
「ほい」
「「奇数!!」」
「助かっt…いや助かってなくねこれ」