7月17日 (3日目)
前日よりは気温が下がった感覚はあるものの快適な朝を迎える午前06:30。寝袋2枚作戦は安眠を約束してくれるようである。ここは水道がある、つまり洗い物ができるので気兼ねなく鍋類を使い朝食にスープを頂く。
朝食を食べていると目の前の水道から垂れる水滴を求めてCloncurry Ringneck parrot (Barnardius zonarius macgillivrayi)が登場。名前の通りこの周辺にしか生息していないインコで、名前の通り首の周りに白い輪がある。なかなかに癒しの空間である。何故レビューでボロクソ言われていたのかは未だに分からない。
07:30頃に行動開始、本日の目的地は射程圏に収めてしまったが故に急遽行くことになった陸の孤島Bouliaである。Cloncurryの町のガソリンスタンドで安全を期して20L(@235.9c/L)給油して、まずはMount Isaを目指す。
08:45にはMount Isaに到着。内陸の中では大きな都市という感じの場所ではあるが、そこはやはり田舎の中ではデカいというだけであり日曜日の今日は大手スーパーを含めてほぼ全ての店が開いていない。足早に「今後400km給油場所がない」地へと足を延ばすべく、またしても給油する。23L(@219.9c/L)、満タンである。Mount Isaまでくるとガソリンの種類がOPALに代わっていた。これはアルコール依存症の先住民達がガソリン嗅いでラリるのを防ぐために、ガソリンとしての機能を維持しつつ芳香性化合物を1/5に抑えている内陸特有の謎燃料である。
Mount Isaを離れるとまた文明からかなり遠のいた生活が続くので、自分の希望でサブウェイに立ち寄り朝食。野菜全部乗せで食物繊維とビタミン類を補給する。冷蔵庫の無い生活が続くのですぐに野菜不足に直面するのである。摂れるときに摂っておこう。
サブウェイを齧りながら車はどんどん南下していく。いよいよ本格的に乾燥した土地にはなってきているのだが、それにしては緑が濃い。やはり今年の雨量は多かったようで植物が生き生きとしている。
唐突に道端の茂みが道路に飛び出してくる。緑色の塊であったそれはセキセイインコの群れだ。なんとか当てることもなく車を停車するが、しかしてBouliaに向け始めてまだ5kmも走っていないのにもう出てくるか。期待感は上がる。
4泊5日の内陸旅から帰宅ぅぅぅぅ!
— てりやき🇦🇺豪州獣医 (@happyguppyaki) July 19, 2022
出発48時間前に旅に出ることが決まり、当初2000kmの旅の予定がなぜか3000kmに延長され(誤差)、荒野を飛び回るセキセイインコとオカメインコに囲まれる楽しい旅であった。
↓セキセイインコ達の突撃を喰らうドライバーてりやき氏。突然目の前が緑一色に。 pic.twitter.com/a0WnHROwte
どういうことかBouliaに向かうにつれて対向車の数がどんどん増えてゆく。あとで知ったことなのだがBouliaでは前日の土曜日に「キャメルレース」なるラクダの競馬、まぁここは競駝(けいだ)とでも呼んでおきましょうか(実際にそう呼ぶらしい)、これが行われていたそうで。帰路についてる車が沢山通り、すれ違う度に蹴り上げられた小石がフロントガラスに当たり、飛び石による連続技できあいのタスキを貫通しながら車は数ヵ所の小さなひび割れというダメージを負っていくのである。
道中の開けた荒野で数匹のフトアゴヒゲトカゲが道の脇でバスキングをしている姿を発見。今でこそ爬虫類飼育の入門種みたいな扱いの本種も野生で会おうとなると案外ガッツリと内陸を攻めないと会えない存在である。写真の個体は口から少量の血が出ていたので多分増えた交通量で路肩に出る車が多くなった結果、車に当たったと思われる。
「アリススプリングスまであと800km」なる中々に感慨深い道路標識を通過しつつ、Bouliaの町に到達。道中の閑散具合を加味すると大きく栄えた町である。折角なので町の端から端までを歩いてみることにしたが、200mも歩かないうちに踏破できてしまったのでなんとも達成感が無い。
パブに入ってビールとコーラを頂くことに。日曜なので昼間から飲んでるローカル連中も散見されるが、よく考えるとそれは平日にも普通に見られる光景ではないだろうか。Bouliaの町はラクダ推しなのでここのパブにはラクダ肉を使用したキャメルバーガーなる幻のメニューがあると友人氏は語るが、いつ来ても品切れだと言われるらしい。
「今日はキャメルバーガー無いの?」
「ごめんなさいキャメルバーガーは売り切れよ」
「やはりか」
「ちょっと裏に何かあるか聞いて来るわね」
「おっ」
「キャメルミートパイならあるわよ!」
「おぉ、冷凍されてたか」
「食ってみよう食ってみよう」
「じゃあそれ2つください」
ラクダ肉を使ったミートパイを食す。田舎のローカルパブでミートパイを食うというこの状況は客観的には中々絵になるものなのだが、いかんせん我々の興味は俄然目下のラクダ肉にあり、赤身の肉に若干の独特な酸味に似た味わいを感じさせるその肉はおよそ美味と分類されるのであるが、食べ進めるうちに気づかされるのはこいつの脂が非常に重く腹にのしかかってくるということであり、ミートパイ1つを食べ終わるころには「もうしばらく食事は良いかな」と思えるようなそんな不思議な肉であると共に、これもまた確実に言えてしまうことなのだが、じゃあ高額を出してラクダ肉を食うか通常値段で牛肉を食うかという選択肢を出された場合、少なくとも今後10ヶ月くらいは「じゃあ牛肉で」と答えるであろうそんな肉である。
キャラバンパークにて設営。相変わらずテント立ててるのは我々しかいないが気にしない。キャメルレース後も滞在している組が多く結構混雑していた。15:00には時間の余裕もできてしまったので、とりあえず散策に出ることに。
しかしここは凄いところである。車を転がせばすぐにセキセイインコの群れに当たる。その隣を見上げればオカメインコたちがたむろしている。やれ右にセキセイだ、やれ左にオカメだと至る所で発見できてしまうが故に、車は一向に前に進まないのである。
日が傾き始めるまでたっぷりとインコ達を堪能した我々は、翌日水場に集まってくるであろう彼らを待ち受けるべく水場の偵察を行った後、日の出の前には現場に入ることを決意してテントへと戻って行った。
帰路の途中、遠くのほうにヒトコブラクダを確認。さっき食ったのはこいつらなのかと考えつつも、多分この個体は野生化してしまったラクダなのだろうなと思うともやもやするのである。本来オーストラリアにはラクダは棲息しておらず、移民が砂漠の移動手段として持ち込んだものの一部が逃げ出し野生化・定着してしまったものが多く存在し、特に換気に植物への食害が生態系へ大きく影響を与えてしまう侵略的外来種。そして皮肉なことに、本来の生息域であった西アジアや北アフリカにおける野生のヒトコブラクダは乱獲と家畜化によって姿を消しているため、昨今で「野生のヒトコブラクダ」を見ることができるのは外来種扱いのここオーストラリアにおけるヒトコブラクダしかいない。
陽が落ちるまではテント横の川岸にたくさん留まっていたトビ達を観察するなど。夕まずめ時で水面に上がってきている小魚を盛んに襲って食べていたが、自分としてはトビ=ロードキルの死肉を食ってるイメージが強く、自力で狩りをしている姿は意外と新鮮である。
昼間に食べたキャメルミートパイが予想以上に重かったので夕飯はカップ麺だけで済まし、水辺が近いせいか日が暮れ始めるにつれて蚊が出始めたので19:10にはテントに撤退。やはり焚火が無いと夜が短いのだ。
明日は06:00から観察に出発して、1500kmの帰路に着くことになる。目標地点はWinton周辺…つまりはあの悪夢の土地Corfield周辺泊になるかもしれない。