とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

オオトカゲに黄昏て【内陸キャンプ旅3日目】

吸い込まれるような直線を、あてもなく征け。

 

 

2022年10月22日、引っ越し内陸キャンプ旅3日目の朝。この日は日が昇る前から起床。

キャラバンパークの朝。

白々と明るくなっていく空を見上げつつ、まずはテントを放置して近隣の溜め池に赴いて早朝の飲水にくるであろう野鳥たちを狙うことに。

溜め池の前。そろそろ太陽が顔を出す。

しかしどうしたことでしょう、日が昇る前でも昇った後でも、とにかく一向に鳥達は水を飲みに来ないではないか。頭上では散発的にセキセイやオカメインコのペアが朝の挨拶を交わしながら飛んでいくものの、大きな群れであったり水場に降りてくる個体は皆無なのである。

これにはT君もあえなく撤退。

どうやら今年は雨量が多かった影響で内陸のそこら中に水溜まりができているのであろう。ともすれば水を求めて群れを成して一ヵ所の貴重な水場に集合、みたいな流れにはならないのである。

見事に思惑を外された我々は静々とガソリンを補給して撤退作業に入った。

ガソリンも内陸価格でお出迎え。

現在ボーリアの町にいる我々であったが、各所からの情報をまとめた結果、当初予定していた案である『ボーリアから南下していく』という過酷なルートはどうやら大々的に冠水していて道路として機能していないようである、ということが分かった。

数百キロもの道のりを進んだ挙句に冠水で行く手無し、なんて事態は一大事なので、T君との協議の結果、この日は来た道を半分ほど戻り、冠水していない道から南下することに決定。

オフロードを走っていたらナンバーのネジが落ちたので枝で補強。

淡々と昨日来た道を300kmほど戻る。道中の路肩で日光浴をするフトアゴヒゲトカゲを発見したので写真に収めるなどする。

アゴヒゲトカゲ。多分フトアゴ (Pogona vitticeps)のほう。

途中からとてもおこでした。ごめんね。

先に進むと今度は橋の近くで大きな丸太のようなものが転がっていた。グールドオオトカゲである。車を後退させてご挨拶に。デカいトカゲはロマンに溢れていて大変良い。

またの名をスナオオトカゲ、Sand goanna (Varanus gouldii)

肉食獣の少ない豪州では彼らが食物連鎖の頂点の一角。

昼頃には前日の通過地点であるウィントン(Winton)の町まで後退。ここから進路を南に向けて、再びシドニーに向けての旅を進めます。ここウィントンの町には何度か訪れており、ここの肉屋で買うソーセージは中々ウマい、ということも知っていたので、これはもう今日はソーセージを買って火をおこしてシッポリと夜を楽しもうではないか、などと車内では画策していたのだが…。

既に曜日感覚を失っていたが本日は週末である。肉屋は閉まっていた。

肉屋プランの破綻にテンションの下がるT君。相変わらず露骨にテンションの下がるヤツである。面白い。仕方がないので代用案として近くのスーパーでパック肉を購入してお茶を濁す作戦に。

これでも十分に旨そうなお肉を900gほど。

肉に想いを馳せつつ、300km後退というハンデを背負った行程の日なので空が明るい限りはひたすら真っすぐな道を走り続ける。その先にあるものは肉である。

今日はどこに泊まろうか。そういうレベルでアドリブの旅。

そして太陽が落ちかける頃、Douglas pond creek rest areaなる無料キャンプ地に流れ着き、この日はここで終了となった。キャンプ地とは名ばかりで、ボットン便所が敷設してあるだけの荒野である。

他には誰もいない。ここをキャンプ地とする。

手早く釜戸を作り、種火を投入して焚火を起こし、燠(おき)を作ったら持参した肉焼き網の下へと持って行く。これでフィールド炭火焼き肉の準備は整うのだ。

焚火で焼いた肉は普段の5倍くらい美味しいのは何故なのか。

飯盒炊きの白飯があって、炭火焼きの肉がある。幸せの具現化。

『肉を焼く日はサイコロは振らない』という絶対的なルールをT君によって強制可決されたため、運否天賦の介入しない平和な夜と味々したお肉を噛みしめながらこの日は夜を迎えた。

ただただ火を見つめるだけの数時間が過ぎる。

火が消えたら寝る。焚火がペースメーカー。