雨と霧と冠水とカンガルーと闇と危険を感じるんだ。
3日目朝。K君宅。天気、すごく微妙な感じの小雨。
「どうする?」
「うーーーん...Bunya Mountains National Parkは山だし天気厳しいよなぁ...朝から走るかなぁ...」
「じゃあ代わりにちょっと近場で滝がある所の散策とかはどうよ?」
「何それ魅力。雨で水量増してるだろうからきっと格好良いぞ行こう行こう」
「あれ、雨なのに結構駐車場いっぱいだな...」
「日曜だし泳ぎに来てる連中だろうなぁ」
「えー寒いじゃん...」
「アイツらの感覚狂ってるからね...おっ、言ってる側から裸足の兄ちゃん歩いてきた」
QLDに帰ってきたなぁと感じる瞬間である。
ここのトレッキングコースは高低差80mの約5kmコースと、カジュアルに歩きにくるにはとても良い塩梅で良きであった。
が、案の定途中で結構本格的なスコールが襲来。全員ずぶ濡れになりつつもこれはこれで貴重な体験をしつつ帰投。
サンシャインコーストを去る前に文明環境での昼飯。タイ料理屋でランチセットを頂く。ブッシュウォーク中に腕や足にまたしても付いていたヒルが店内の床を張っていたので気づかれないように処理。
そして午後1時、まだまだ雨が強まる中、K君と足早に別れついに進路を内陸へ。まずはとにかく雨雲の先へ向かい乾燥した大地を手に入れることを第一目標とした。
しばらくは順調に、そのうちに高低差のない開けた大地へとたどり着いた。ここいら一体も前日から大量の雨が降り注いだらしい。あたりには、冠水した道路が広がっていた。またしても冠水に苦しめられる旅なのか。。。
しかし、こちらも10年物パルサーの底力を知っている。冠水深度20センチのマーカーを頼りに、窓から身を乗り出しながら、しっかりと徐行して、冠水を一つ一つクリアしていく。
次から次へと現れるFloodwayのサイン。また冠水か?この次のはもっと深いのであろうか?主要幹線道路まではあと16キロ。もし引き返すとなれば、60キロ。燃料は120キロ分。行けるのか?まだいけるのか?不安しかない旅路は続いた。
雨雲の先を目指し、ひたすら西へ。30カ所位の冠水を抜けると、ようやく大通りへたどり着いた。幹線道路の安心度は大きい。大きなストレスからの解放である。時刻は午後4時を過ぎている。もうすぐ日没だ。
午後5時半ごろ、予定していたMilesの町の一角にある無料キャンプグラウンドに到着。しかし当初の予定とは裏腹に空にはまだまだ雨雲が広がり、現場も水浸し状態である。
上にも下にも水が溢れているとわかれば、テントを張る気力は全く起きない。首脳会談(1人)の結果、今夜はテントを張らず、車中泊で乗り過ごすことに決定。
そうとなれば日没前に停まる必要もないため、このまま次の街を目指すことにした。本来であれば日没後に車の運転はしない。死角からヘッドライトめがけてカンガルーが飛び出してくるからだ。だが、ここはまだまだ内陸とは言えない場所。大丈夫であろう。
雨雲のせいで急速に暗くなってきたところで、事件が発生。先ほど慢心的な決断を下した例のヤツがまさしく目の前に飛び出してきたのである。
「うわっ!カンガルーいるんかい!」
急ブレーキを踏み込み間一髪でかわす。呑気にブッシュへと跳ねていくカンガルー、アドレナリンバリバリの運転手。
周りは街灯1つない暗闇と化してきた。小雨はパラつき霧は濃くなっていく。またいつどこからか奴らが飛び出してくるかもわからない。怖い。周りは事故の原因となり得るもので溢れかえっていた。
どんどんと深くなる闇の中、1つの希望を見出した。前方に赤いテールランプが見えるのである。どうやら前方車両に追いついたらしい。テールランプの下に近づくと、それはバイクを牽引したSUVであった。
「バイク牽引ニキ!」
嬉しさのあまり車内で一人そう叫んでいた。このような視界不良の中、前方車両の存在がどれだけありがたいか、わかる人にはわかるであろう。速度こそ遅いが、私はバイク牽引ニキに一生ついていくことに決めた。
30キロほど走ったであろうか。前方のバイク牽引ニキが急にハザードを焚き、車を路肩に停車させた。どうやら彼にも限界が来たらしい。
「バイク牽引ニキ...なんでいなくなっちまうんだよ...!俺1人でどうしろって言うんだ...!」
心の中でむせび泣き仲間の喪失を嘆いた。もう飛び出してきたカンガルーを代わりに轢いてくれる奴も、突然の冠水に先に突っ込んでくれる奴もいなくなった。
しかし、ここで新たな希望の光が目に飛び込んできたのだ。
今までずっと私の後ろを着いてきていた後続車両が、徐行運転にしびれを切らし、後ろから一気に追い抜いたのである。
「速度超過ニキ!!」
闇を切り裂いていく速度超過ニキのハイビーム。まずい!このまま置いていかれるわけにはいかない。
「速度超過ニキ!頼みます置いていかないでください!」
アクセルを踏み込み、必死に食いついていく。それまでの徐行とは打って変わって速度を上げた私を、まるで赤子をあやすかのように速度超過ニキはジェットストリームで優しく包んだ。
一方で突如最後尾となったバイク牽引ニキ。バックミラー越しにもグングンと距離を離されていくのが見てとれる。牽引車でこの速度は厳しいのだ。
「バイク牽引ニキ...!はやく!はやく追いついてくれ...!こんなところで落伍するな!」
祈りも虚しくバイク牽引ニキのヘッドライドはみるみるうちに後方の闇に呑まれ、二度とその光を拝むことはなかった。そんなことはお構いなしに爆走する速度超過ニキ。こちらも涙を流している余裕はない。バイク牽引ニキは迫り来る闇を抑え込むために犠牲となったのだ。
結局60キロほどニキのケツに食らいついて走った。私とニキは気づけば大きな街Romaへとたどり着いていた。
「速度超過ニキありがとう...おかげで無事に街までつけたよ...!」
街の交差点で私とは別方向に向かおうとするニキに対し、渾身の感謝ハザードをプレゼントした私は、町外れの公衆トイレの横にある無料駐車場エリアにて車中泊への体制と移行した。