とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

不穏な夜を乗り越えて【内陸キャンプ旅5日目】

道を切り拓いた先に、動物運は待っている。

 

 

若干の雨と強い風の夜を乗り越え、カナマラのキャラバンパークには静かな朝が訪れた。幸いだったのは風の勢いには似合わない雨の弱さである。これで豪雨が来ていたらテントの浸水、進行方向の冠水や補給路の喪失といった大惨事になりかねなかった。昨晩の祈りは辛うじて蜘蛛の糸くらいの細さで天へと通じたようだ。

5日目の朝焼けが穏やかに濡れたテントを包む。

テントを乾かして出発である。想定よりも雨が弱かったため、本日の朝はまず昨日引き返した冠水地点を車で強行突破し、その先にある野鳥観察ポイントを目指すことにした。果敢に水へ突撃するのは運転手T君である。

いけるいけるゥ。

先の見えない冠水ではあったが、冠水しやすい道路脇には基本全てに水深計が設置してあり、これが10㎝を示していれば何とかなることも判明。朝だしまだギリギリ車通りもある場所だからこそできる無茶。

雨露に濡れたエミューの父と子供達。

降水で花畑状態になっている内陸とエミューと野生のT君。

その後しばらく走ったところで、唐突に探鳥ポイントが出現。ご丁寧にアキクサインコの生息地を示す立て看板まで設置されていた。これは期待が持てそうな場所だ。

EuloとCunnamullaの間に位置するポイント。

どうであろうか、元々水場なだけあってかなり好条件で鳥の濃い場所だ。昨日の雨によるテンションダウンから一転、我々の期待値は高まる。

空の機嫌も悪くないし、鳥達は元気だ。

「おっ!」

「あっ!」

「いやっ!」

「わわわっ!」

鳥はとても濃かった。言葉にならない嗚咽と共に自分もT君も勝手にフィールドを駆け回る。自由である。

セキセイインコ達。群れずにペアでばらばら行動。

ベニオーストラリアヒタキ、Crimson chat(Epthianura tricolor)。

セイキインコ、Mulga Parrot(Psephotellus varius)。

オカメインコも勿論ヒョイヒョイ言っていた。

水があり草の種があれば、それはもう営巣体勢で良いのだろう。

アカカンガルーさんも勿論います。オッサンの顔してる。

結局お昼近くまでたっぷりと滞在してしまった。残念ながらT君の求めていたアキクサインコの姿は拝めなかったが、それでも成果としては十二分の良き場所であった。また来たい。

 

※2024年リベンジ編にて同地点でアキクサインコに無事遭遇

 

この道をずっと進むとEromangaの町か…。

鳥たちを十二分に堪能したところで一度Cunnamullaの町に戻り、昼食。何故か道中に「カナマラまで来たなら名物ラクダバーガーを食べないと!」などという煽り文句がでかでかと掲げられた広告看板があったので、余所者である我々はまんまとその術中にハマり町のカフェへ向かう。

メニューにはCunnamulla Camel Burgerの文字。

ラクダバーガーを陽気なオバちゃん店員に注文して待つこと10分ほど。ビートルートの輝くサンドイッチプレスで潰し焼いた手作り感満載のバーガーが参上。ラクダ肉は何度か食べたことがあるが豚肉の脂を重たくしたような独特の味がする。美味い。

ラクダバーガー。紙袋に突っ込まれた雑な感じが実に良い。

腹ごしらえを終えたらまたしても車の旅。この日の目的地はクルマサカオウムが何度も目撃されているBourkeの町近くの一角。途中、近道のオフロードを進んでいると突破不可能な泥道の冠水に阻まれ1時間以上のロスタイムを喰らうなどする。

T君が助手席で平和に爆睡する中、ひたすら南下する。

CunnamullaからBourkeへと南下するということはどういうことか。それはいよいよQLD州とのお別れを意味していた。全く変わり映えのしない真っすぐな道路の傍らで、NSW州の歓迎を謳う看板は静かにそびえ立っていた。

曇天にそびえる州境の看板。

Bourkeの町を掠めたまま進路を少し北西に向け、幹線道路から外れた田舎道を進む。空模様は雲こそあれど安定していそうである。

多分こっちはヒガシアゴヒゲトカゲ(Pogona barbata)

アゴヒゲさん達を避けつつ進み続けると、今度はよりスローペースに道路を横切る生物を発見。

「おっ!松っちゃんだ!」

マツカサトカゲ(Tiliqua rugosa)。

この旅において初遭遇のマツカサトカゲさん。松ちゃんという愛称で呼んでいる人は少ない。逃げ足の遅い子なので降車してまじまじと観察してしまうのだ。

蒼い舌を見せつける果敢な威嚇も愛くるしい。

マツカサさんと戯れているうちに陽はどんどん傾いていく。いけないいけない、今日の野営地を見つけなければ。目的であるクルマサカオウムの過去の目撃情報を参照しつつ、我々は道端から外れたブッシュに上手いこと車を隠せる場所を発見し、ここにステルスキャンプを決行することに決めたのである。

ここを本日のキャンプ地とする!

と、ブッシュに車を突っ込んだ瞬間に頭上の木から何か大きな生物が飛び立った。

「あっ!」

「おっ!いたねいいね!」

クルマサカオウム(Lophocroa leadbeateri)。

オーストラリアのオウムの中でも内陸のアクセスの悪い場所にしか生息していないため見るのが難しいはずなのだが、可能性のある場所に来てみたらあっさりと出会えてしまえた。これは運が向いてきたぞ。

お食事中のところを邪魔してしまったようですぐに飛び去ってしまったが、これは期待できるぞと胸を高鳴らせながらその場にテントを設営。この日のサイコロ飯は無難な落としどころで中華丼であった。

サイコロ飯。出目は3。

 

赤から青へ、そして黒へとつながっていく空のコントラストを肴にしながら飯盒の白飯を掻きこみ、アウトバック特有のバカでかい蚊に襲われ始める前に早々にテントへと非難を決め込み、この日は大満足の就寝となった。

暗闇のその先でクルマサカオウムは叫んでいた。

 

 

youtu.be

 

太古の大地に想いを馳せて(2024年キャンプ8日目)

最終夜は数千年前へのタイムトラベル

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8日目朝は5:30に起床。そりゃ前日19:30に寝ていればイヤでもそうなる。しかし外は暗くて寒い。二度寝を決め込んで次に起きたのは6:30であった。

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まったりと朝の探鳥を行う。ここでの本来の狙いはクルマサカオウムであるが、彼らは経験則から言うと結構喋ってくれるので声が聞こえてからその方向に向かうのが正解である。だが肝心の声が全くしない。今日はいないのであろうか。

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違うインコ類は色々と飛んでいるし喋っているのだがなぁ。

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9時まで待ってみるが全く気配がないので移動を決意。まぁ簡単に出会える鳥ではないから仕方ない。

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Bourkeの町まで戻ってスーパーで朝飯とジュースを購入。久々の文明である。

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町の中ではクロオウム達が30羽ほど集まって井戸端会議を開いていた。そして相変わらず左利きである。

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昨晩はネット環境から離れていたので町外れの木陰で鳥の声を聴きながらブログの執筆、更新、予約投稿設定を行う。これでBourkeはひと段落である。

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さらにネット環境で調べると、クルマサカオウムの最新目撃地点はここから更に南下したMt Hope周辺と判明。その目撃日は26日...って今日じゃねぇか。うーん...そっち方向に行くかぁ...
方向性は決まった。南に向かいつつシドニーを目指そう。

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旅路を再開して40分ほどで近くに国立公園の看板を発見。時間的な余裕もあるし寄ってみよう。

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Gundabooka National Park。ここにはオーストラリア先住民が描いた壁画が残っているらしい。これはぜひみに行かなくては。ということで壁画のある場所までブッシュウォークです。

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20分ほどで壁画の場所に到着。こんな荒野のこんな岩場に突然あるのか。凄いな。

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岩肌の絵を見てみる。おぉ、凄い!本当に先住民の残した絵ですよ。格好いいなァ。沢山の人が集まっている様子はきっと何かの祭事を表しているのであろうか。

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こちらにはエミューの絵。この辺りでメインで獲っていた狩猟対象だろうからなぁ。

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人の絵には右手に「くの字型」の物が握られている様子も描かれている。この辺の部族はまさにブーメランをメインウェポンとして使用していたのだろうかねぇ。変化していないであろう周りの環境を見て、飛び交うブーメランを想像する。妄想が捗る。

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しかしなんでこんなところに壁画があるのだろうと思いちょっと辺りをうろついてみる。するとすぐ近くに水溜まりを発見。ここ1ヶ月でまともな雨は1日だけの筈なのにまだ真水が充分に残っているところから推測するに、ここは当初でも貴重な真水の補給源だったのかもしれない。

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そんな想像を膨らますニンゲンを一匹のカンガルーは不思議そうに見つめていた。きっと彼はその本当の理由を知る大地の生き証人なのだろう。

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フラリと寄ってみたが大満足のブッシュウォークであった。

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寄り道を終えて再び車を走らせる。向かう先はBourkeの南。つまりは...
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そう、2022年に散々な目に遭った伝説の場所Cobarである。

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今回の旅も集大成。せっかくなので今日は焚火を起こして肉を焼こう。そう思ってローカルの肉屋に突撃。

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ソーセージが色々と種類があって美味そうだったので各2本ずつ購入。コイツを焼いてパンに挟んで食おう。

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もはや「いつもの場所」と呼ぶべき野営地点に到着。実家のような安心感とCobarのような不安感。

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しかしやはり火を起こして焼いた肉は美味しいのである。明日ちゃんと帰れるかなんて不安は忘れ、ひたすら美味しい肉に齧り付いた。

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アキクサインコに魅せられて(2024年キャンプ7日目)

秋草の弛む大地に鳥は舞う

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朝6:20、共に一夜を明かしたモモイロインコ達の朝の雑談につられて起床。もうすぐ陽が昇る。本日の目標は野生のアキクサインコに出会うこと。

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身支度を整えているうちに日の出。少し南下してきた影響で朝の冷え込みも感じるようになってきており、太陽の暖かさに想いをふけていると、後ろの方からピロピロという声が聞こえる。

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「コイツは予習していた声じゃね!?」と振り返ってみると、まさしくその通り、待っていたアキクサインコが枯木に留まっているじゃないですか!ペアで訪れてくれた様子。とっても可愛らしい。が、しかし時刻は7:20、太陽光はまだ地平線の端から赤い可視光線を放っている時間帯。うーん、写真はとても微妙である。

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しかし出会えることこそが大事。一応証拠写真も撮れたし満足である。アキクサインコは地味に分布範囲も狭い僻地に棲んでいるので出会うのがそこそこ大変。満足して朝飯のスープを作る。

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と、まさにお湯を沸かしてカップに注いだタイミングで何気なく顔を上げてみると、なんと3m先のフェンスにちょこんと1羽のアキクサインコが留まっているじゃないか...!慌ててカメラを構えた瞬間に飛び去るアキクサインコ。見失う私。打ちひしがれる私。運がない...。

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いや、運はあった!打ちひしがれる私の耳元で例のピロピロした声が。しかも複数だ。顔を上げると、枯木の上に求めていた子の姿が。帰ってきてくれたか!

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彼らも彼らで朝のお水を一杯やりに来ているらしく、ヒトの存在もあまり気にしていないボーナスタイムに突入。これはアツい!

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ポジション的に逆光だったのでジワリジワリと回り込んで順光ポジションを確保。特に気にするでもなく水場の安全確認に集中しているインコ達。

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そして地面へ。まだまだ周りを警戒中。一挙手一投足が愛らしすぎる。

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ここだ!というタイミングでお水へ。

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そして5秒ほどで勇気パラメータを消耗してしまい桃色の胸と青色のオシリをふりふりしながら水から離れる。可愛過ぎるのだ。

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ピロピロ言いながら飛び去るまで5分ほどはあっただろうか。大満足の観察になった。今日はもうおしまいでいいや。尚スープはぬるくなっていた。ハエがすげぇぜ。

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アキクサインコを見るために連泊することまで視野に入れていたが大満足の結果になったため移動を決意。Bourkeの町を目指します。

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道中は安定のフトアゴヒゲトカゲさん。なんか警戒して潰れた体制。

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CunnamullaからBourkeまでの道のりはひたすらまっすぐで暇である。ただただ車を走らせていたらQLD州が終わってNSW州へと入っていた。

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看板を撮るために降車したら奥の方でセキセイインコ達が木に降りた。そう言えば今回の旅では散々上空を飛び回る彼らを見ていたが地面や木に降りた姿を見ていなかったので写真撮ってないなぁ。証拠写真だけ抑えるも、遠すぎ&陽炎が立ってしまって映らん。

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Bourkeの町に着いたらすぐに町外れのとある場所に。ここも2022年にお世話になって連泊までした場所。クルマサカオウム狙いで今夜はここです。

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前回来たときは物凄い蚊の猛攻を受けたが今夜は平和そのもの。ハエも少なく快適であった。若干の冷え込みは感じるが南十字星は今日も綺麗に輝いていて精神衛生はすこぶる宜しい。ここはネットも繋がらないので久々の現代文明デトックスである。メシを食い、冷え込んできてやることもないので早々に寝袋にこもり、ノンビリやっているうちに19:30頃には寝落ちしてしまった。こういう時間こそ人生には時々必要だと思うのだ。

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