道を切り拓いた先に、動物運は待っている。
若干の雨と強い風の夜を乗り越え、カナマラのキャラバンパークには静かな朝が訪れた。幸いだったのは風の勢いには似合わない雨の弱さである。これで豪雨が来ていたらテントの浸水、進行方向の冠水や補給路の喪失といった大惨事になりかねなかった。昨晩の祈りは辛うじて蜘蛛の糸くらいの細さで天へと通じたようだ。
テントを乾かして出発である。想定よりも雨が弱かったため、本日の朝はまず昨日引き返した冠水地点を車で強行突破し、その先にある野鳥観察ポイントを目指すことにした。果敢に水へ突撃するのは運転手T君である。
先の見えない冠水ではあったが、冠水しやすい道路脇には基本全てに水深計が設置してあり、これが10㎝を示していれば何とかなることも判明。朝だしまだギリギリ車通りもある場所だからこそできる無茶。
その後しばらく走ったところで、唐突に探鳥ポイントが出現。ご丁寧にアキクサインコの生息地を示す立て看板まで設置されていた。これは期待が持てそうな場所だ。
どうであろうか、元々水場なだけあってかなり好条件で鳥の濃い場所だ。昨日の雨によるテンションダウンから一転、我々の期待値は高まる。
「おっ!」
「あっ!」
「いやっ!」
「わわわっ!」
鳥はとても濃かった。言葉にならない嗚咽と共に自分もT君も勝手にフィールドを駆け回る。自由である。
結局お昼近くまでたっぷりと滞在してしまった。残念ながらT君の求めていたアキクサインコの姿は拝めなかったが、それでも成果としては十二分の良き場所であった。また来たい。
※2024年リベンジ編にて同地点でアキクサインコに無事遭遇
鳥たちを十二分に堪能したところで一度Cunnamullaの町に戻り、昼食。何故か道中に「カナマラまで来たなら名物ラクダバーガーを食べないと!」などという煽り文句がでかでかと掲げられた広告看板があったので、余所者である我々はまんまとその術中にハマり町のカフェへ向かう。
ラクダバーガーを陽気なオバちゃん店員に注文して待つこと10分ほど。ビートルートの輝くサンドイッチプレスで潰し焼いた手作り感満載のバーガーが参上。ラクダ肉は何度か食べたことがあるが豚肉の脂を重たくしたような独特の味がする。美味い。
腹ごしらえを終えたらまたしても車の旅。この日の目的地はクルマサカオウムが何度も目撃されているBourkeの町近くの一角。途中、近道のオフロードを進んでいると突破不可能な泥道の冠水に阻まれ1時間以上のロスタイムを喰らうなどする。
CunnamullaからBourkeへと南下するということはどういうことか。それはいよいよQLD州とのお別れを意味していた。全く変わり映えのしない真っすぐな道路の傍らで、NSW州の歓迎を謳う看板は静かにそびえ立っていた。
Bourkeの町を掠めたまま進路を少し北西に向け、幹線道路から外れた田舎道を進む。空模様は雲こそあれど安定していそうである。
アゴヒゲさん達を避けつつ進み続けると、今度はよりスローペースに道路を横切る生物を発見。
「おっ!松っちゃんだ!」
この旅において初遭遇のマツカサトカゲさん。松ちゃんという愛称で呼んでいる人は少ない。逃げ足の遅い子なので降車してまじまじと観察してしまうのだ。
マツカサさんと戯れているうちに陽はどんどん傾いていく。いけないいけない、今日の野営地を見つけなければ。目的であるクルマサカオウムの過去の目撃情報を参照しつつ、我々は道端から外れたブッシュに上手いこと車を隠せる場所を発見し、ここにステルスキャンプを決行することに決めたのである。
と、ブッシュに車を突っ込んだ瞬間に頭上の木から何か大きな生物が飛び立った。
「あっ!」
「おっ!いたねいいね!」
オーストラリアのオウムの中でも内陸のアクセスの悪い場所にしか生息していないため見るのが難しいはずなのだが、可能性のある場所に来てみたらあっさりと出会えてしまえた。これは運が向いてきたぞ。
お食事中のところを邪魔してしまったようですぐに飛び去ってしまったが、これは期待できるぞと胸を高鳴らせながらその場にテントを設営。この日のサイコロ飯は無難な落としどころで中華丼であった。
赤から青へ、そして黒へとつながっていく空のコントラストを肴にしながら飯盒の白飯を掻きこみ、アウトバック特有のバカでかい蚊に襲われ始める前に早々にテントへと非難を決め込み、この日は大満足の就寝となった。