何もない地平線の、
そのさらに向こうを目指そう。
気の向くままに、どこまでも南へ。
きっとその先には発見があるから。
2022年10月19日。引っ越し当日。
この数日前には既に1台目の車にネコや最低限の生活用品を載せて一度シドニーへと沿岸ルートで下っていたてりやきは、単身飛行機でケアンズへと引き返し、引っ越し業者に家財のほぼ全てを託す作業に。近所の木をへし折りながら大きなコンテナトラックで乗りつけてきた業者のマッチョな兄ちゃんたちに家電や段ボールの山を託し、6年間世話になった我が家に別れを告げる。空き家となった我が家はいつもの5割増しで広く、そして少し寂しく感じた。
手元に残されたのは本当に最低限の「生きていくための装備」であった。
テント、寝袋、コット、椅子、水、食料と米、火種と調理器具、衣類、カメラなどの撮影器具、そして何故かある聴診器と何故かあるスネークフック。これらを駆使してシドニーへの帰還を目指す。
業者が荷物を積んで家を去ったのは昼を過ぎた頃であった。今から旅に出発しても数時間後には夕暮れであるためキャンプ旅においては効率が悪い。しかし家で一泊しようにも家には既に何も残されていない。
というわけで、この日はT君の家に押しかけて床にマットを敷かせてもらいビバークをすることに。
「で、どこに行こうか」
ビバークの準備をおえて一息ついたところで、ようやくこの話を切り出した。アホみたいで本当の話なのだが、我々は「ケアンズからシドニーまで内陸経由で車を走らせよう」という旅の終着点については話していても、具体的にどういったルートで旅をするかは全く決めぬままこの日を迎えていたのである。
「とりあえずシャーロットプレインには行きたいかな」
「よし行こう行こう」
「しかし24日辺りにシャーロットプレインとなると日程が余るなぁ」
「ではボーリア経由で遠回りするか」
「ボーリア今年行ってないから行きたいなァ」
「Wiki Campsで周辺の野営地を探そう」
「eBirdでアキクサインコが見れる場所も探しておくわ」
2022年10月20日。
旅の朝は早い。我々の目指すところは人里離れた自然の中である。我々が求めるところは文明社会の喧騒から離れた荒野である。なので、旅に出るとなった場合まず最優先されるのは文明的な町からできうる限り距離を取ることであり、これはすなわち早朝から一気に長距離を移動することである。
日の出と共に車に乗り込み、まずは内陸を目指して西へとひた走る。途中の昼食はタウンズビルのガソリンスタンドに併設されているKFC。
走り始めてから5時間ほどするといきなり視界を奪われるほどの豪雨に襲われる。
「これは…テント張りに行くってことでいいね!?」
「試練を乗り越えないといけないから」
この時の我々はまだ今後この『雨』に苦しめられることになるとは思いもしなかったのである。
時速100kmで車を突っ走らせる中でも常に動物の気配には気を配っている。ふと路肩に紐状の動く何者かが。すぐに車を停車、Uターンして引き返してみる。
普段であればこれだけの距離を移動していればそこそこ多くの動物に出会えるものなのだが、この日は一匹のズグロパイソンだけであった。雨の影響であろうか。
初日は一番移動距離を稼げる日である。テントを畳む必要も無く、前日の疲れはないし柔らかいベッドの上で質の良い睡眠を取った翌日であるからだ。ここでまずは一気に走ってしまうべく、淡々と860kmを移動する。
この日の目的地Corfieldに着く頃には既に夕暮れであった。
設営を終えたら次は飯である。が、折角の長期旅なのでもう一ネタ欲しいと考えたてりやきは、「サイコロ飯」なる企画でその日の晩飯を決めるという愚行に及んでいたため、T君の運に全てを委ねてその日の飯のメニューを決定する。
「行くZE☆」
「いけぇー!!」
「……ヨシっ!!ドンマイ!」
「ケンタッキー…ちょっとだけ貰おうかな…」
「勿ろn…えっ?」
「え、いや味噌汁にケンタッキー入っちゃいけないなんて」
「「ルールはないね」」