とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

Australian Mantids

今日は虫注意だ。

 

f:id:happyguppyaki:20180429234314j:plain

Tenodera australiasiae。別名Purple-winged Mantis

亜熱帯地方の夏場はとにかくすげぇ量の雑草が庭に生えてくるわけでして、ここ最近はずっとそいつらの除去、除草を行ってきたわけなんですが、思いもよらぬ副産物が。

草が生い茂ってる状態なんで大量のオンブバッタやらイナゴやらが棲息していたのですが、そいつらを狙って住み着いていたのがこいつら。カマキリさん達です。

 

f:id:happyguppyaki:20180429234312j:plain

カマキリは尻がエロいのよ、尻が。

カマキリはいいですね、カマキリは。

物心ついたときから昆虫採集と飼育は毎年の恒例行事でした。なんというか、至極当然のように一端の獣医の原点は昆虫少年だったわけです。

いうてもこの昆虫少年、生まれも育ちも東京都。周りにはコオロギを見てゴキブリがいると叫ぶような子供達に囲まれて育ちました。そんな中、何のマンガに影響されたか麦わら帽子に昆虫網というザ・昭和スタイルでコンクリートジャングルを駆けまわっていたのです。

ちなみに影響されたのは周りがONE・PIECEを読んでる時代に「釣りキチ三平」でした。

 

f:id:happyguppyaki:20180429234313j:plain

カマキリは表情が豊かなのよ、表情が。

そんな都会でも昆虫ってのは逞しく生きておりまして、およそ小学生しか物理的に立ち寄れないであろう極僅かな繁みに飛び込んでみれば、なんだかんだと細かい虫は一杯捕れました。

 

小学校のクチナシの葉にはオオスカシバの幼虫がいたり(デカくて尻に「毒針がある」とか言いがかりつけて駆除しようとした教師を殴って保護した)、

近所の神社でアブラゼミ大量捕獲チャレンジに明け暮れていたらどこからともなくヒグラシの声が聞こえてきたり、

家庭菜園のニンジンに付いたキアゲハの幼虫を捕まえて臭角の臭いに酔ったり、

大きなトノサマバッタの雌が道路脇のくそ硬い土に産卵管を挿して必死に命を繋ごうとする様を下校中ずっと観察したり(その後すぐに駐車場に埋め立てられて泣いた)

 

あぁ、懐かしい。

 

男の子の花形であるカブトムシやクワガタムシはさすがに遠征しないと捕れなかったのですが、小学生がチャリンコで行ける範囲で一番テンションの上がる「大物」はやはりカマキリさんだったのです。

 

その擬態力!

その鎌の圧倒的破壊力!!

その静寂に包まれた構えと!音速で繰り出される必殺の攻撃!!!

 

男の子のロマンが詰まってます。

 

f:id:happyguppyaki:20180429234309j:plain

カマキリは餌食べる姿か愛くるしいのよ、食べる姿が。

毎年数匹のカマキリを飼い、学校から下校したらまず虫網を持って餌の調達に近くのちっこい公園の植木内に突撃してた毎日。

 

そんな童心を思い出させてくれるこいつらです。やはりカマキリは良い。一つ一つの仕草が本当に可愛いんですよねこの昆虫。ここまで表情豊かな昆虫ってあまりいないと思います。

 

f:id:happyguppyaki:20180429234310j:plain

Orthodera ministralis。名前にミニが入る。これでも成虫。

しかしてあれだね、探してみると出てきますねカマキリ。

 

こいつはOrthodera ministralisという小型カマキリ。今日脱皮して完全な成虫になりましたがこのサイズ。ピョンピョン跳ねて一瞬バッタだと思ってしまう。

全然知らなかったのですが、どうやらオーストラリアには160種以上ものカマキリ達がいるらしい。どんだけ色々いるんだよと。

 

f:id:happyguppyaki:20180429234311j:plain

可愛いんだけど接写レンズ近づけるとカメラに飛びついてくるから写真撮れない

 

色々なところで細かく擬態してるんだろうなぁ。もっと見つけたい。

 

日本のビジネスマンすげぇ。

どうも、長い間使っていたサンダルがぶっ壊れたワタシデス。

どうすんだよぉ、オーストラリアにおいてサンダルの無い人なんてどこにも行けないようなモンだぞ。免停中のレーサー、革靴の無いビジネスマンみたいなモンだぞ。

 

ということでビジネスマンの話ですよ(無理矢理)

 

 

数日前の話なんですけどね、まぁいつも通り病院でせくせくと午後の診察を消化してたんですよ。するとフロントにいるナースから呼ばれたのでございます。

看護師「AKI、なんかよく分からないけど人が待ってるよ」

AKI 「患者さん?」

看護師「よく分からないけど面会?」

AKI 「どういうことだってばよ」

 

もはや説明にもなっていないまま、とりあえず待合室に赴いてみると、おやおや?何やら非常に場違い過ぎる格好のアジア人が2人座っているではございませんか。いやー、物凄い異様な空気と言いますか、明らかに浮いている

ここはオーストラリアですよ。その中でも片田舎に属するであろう土地です。熱帯地方でもあります。そんな地域の、さらに動物病院なんです。

こんなところでね、バリッとジャケット込みのスーツ着てネクタイ締めてる二人組なんていないんですよ…。

 

明らかなアウェー感を醸し出す二人組から声をかけられます。

???「●×$#&%*+☆…」

 

ごめんなさい、正直すぎる意見を言います、ほぼ聞き取れなかった。でもこの母音の強い発音、こいつは…

 

AKI「も、もしかして日本人の方ですか…?」

???「えっ」

AKI「えっ」

 

 

f:id:happyguppyaki:20180422215808j:plain

クロスメディカルサービスさんの動物麻酔用人工呼吸器をよろしく

うーん、こういう偶然ってあるのでしょうか、

何と言いますか、日本の会社が作る動物麻酔用人工呼吸器を、日本人が適当にノーアポ駆け込み営業をオーストラリアの動物病院で行ってみたところ、偶然にも対応してきたのがオーストラリア在住の日本人獣医師であった、という事態。もう文字に起こしても意味分かんねぇって。

 

話を聞くと、豪州のある獣医大学の麻酔科に日本人の麻酔師さんがいて(アメリカから来た日本人獣医麻酔師らしい)、そこに人工呼吸器の大口の仕事が入った帰りに、せっかくだからとうちの近辺の動物病院にノーアポで駆け込んで営業をしている、との話。確かに空港的に日本帰る前にここ立ち寄るからなぁ、時間の有効活用ってやつですか。

 

しかしもうここで日本最終学歴小学校卒の自分は感激ですよ。

 

こ、これが噂に聞く!

ジャパニーズ・トビコミ・エイギョー!!

ただね、一応まぁ時間的余裕はギリギリあったから良いけどね、オーストラリアで医療関係の営業はノーアポ基本無理ですからね、そこ気を付けてね。日本から来てなかったら思いっきり断ってるところだもの。

 

 

そんでもって差し出される名刺。うわわわ、まってまって、腰低くして両手で名刺差し出されてる。うわわうわうわ。

 

日本最終学歴小学校卒の自分はテンパりまくりですよ。

 

こ、これが噂に聞く!

ジャパニーズ・メイシ・エクスチェンジ!!

自分に名刺交換の常識なんてありません。多分片手で受け取って、即行でポケットにぶち込んだと思います。ごめんなさい。何度も言いますが小卒にそういう面を期待しないでください。こちとら最後日本に帰ったのがいつかも思い出せないし、最後にネクタイ締めた時も思い出せないのです。

 

営業「良ければ麻酔装置等少しだけ拝見してもよろしいでしょうか」

AKI「どぞどぞ」

営業「あー、なんていうか、オーストラリアの麻酔は簡易なものが多いですね」

AKI「日本の状況を知らないので何とも言えませんが、基本こんなんですねー」

営業「人工呼吸器とかは無いんですか?」

AKI「こんな片田舎の町医者病院にそんな設備を期待しちゃいけませんね。大学や緊急病棟ならまだしも」

 

 

なんか何枚か写真撮っておりました。完全に取材ですやん。構いませんが。

しかしこちらも我慢の限界です、一人がパシャパシャと写真を撮っている間に、どうしても気になってしまったので言いました。

 

AKI「しかしこんな熱帯地域に来てまでバリバリのスーツはアレじゃないッスか?上司が見てる訳でもないんですから脱いじゃってもいいじゃないですか(笑)。皆さんビックリしちゃいますよ?」

営業「(苦笑)」

AKI「……^^;」

 

豪州在住15年目の自分は戸惑いですよ。

 

こ、これが噂に聞く!

ジャパニーズ・ワラッテゴマカス!!

 

お兄さん別に親切心で言ってるんじゃないんだ。いやまぁ親切心も勿論込み込みなんだけどね、この国の動物病院でバリバリスーツは相手引いちゃうと思うの。こっちの営業は80%くらいはネクタイすら無しのYシャツオンリー何だから…。

が、今このブログを更新するにあたって貰った名刺を再確認したところ、お二方ともそこそこ上っぽい役職が書いてある…(いや役職とか分からんのですが)。上司に見られてないとかそういう話じゃなかったわ。全く縦社会に慣れていない野郎がアホみたいな忠告をしてしまった。でもね、郷に入っては郷に従えってヤツです、せめてジャケットは脱ごう。マジで。

 

彼らは飛び込み営業で何かしら戦果を得られたのでしょうかね。まぁ大口の仕事終えた後だろうから戦果無くても大丈夫なんだろうけど。

個人的には日本のビジネスマンと初めて「仕事として」エンカウントして面白かったです。

 

 

ちなみに彼らが帰った後、ナースの皆さんに訊かれたのは

「彼等はAKIの知り合いのジャパニーズ・YAKUZAか?」

です。

 

 

だからがっつりスーツはこんな片田舎じゃダメだって言ってんの!

(本人たちがこのブログを発見しないことを祈る)

Out of comfort zone

いやー、なんというか、人生の転機とは突然に訪れるモンですな。

 

今日も今日とてC病院のヘルプだったんですけど、朝から会社の本部とネット通話を使った緊急ミーティング。なんかC病院に問題でもあんのかと思ったらなんだか自分まで強制参加。

 

本部「えー…複数の報告があります…」

全員「うむ」

本部「まずですね、5月13日から2か月分、C病院の代診医が確保できました」

全員「おぉ」

本部「ということで、AKIとJ先生のC病院のヘルプは5月上旬を持って終了となります…」

全員「うむ」

本部「えー…っとですね…それでですね、そのタイミングを持ってJ先生はお仕事を辞めます」

全員「うむ……ん?」

AKI「どういうことだってばよ?」

 

本部「J院長、5月上旬を持ってB病院もC病院も辞めて、ゴールドコーストの病院に移転してもらうことになりました…」

 

…(´・ω・`;;)

 

 

??(  ´・ω・`)

 

 

はい。

来月、院長とサヨナラです。

 

 

やべぇ。どうすんのこれ。

つまるところ来月からうちの病院に残されるのは自分ともう一人最近入ってきた獣医(6年の経験あるけど子供産んで7年のブランク有)の2人ってことやで。もう一人はフルタイムじゃないから、これ現実的にみて自分メインで病院回していけってことじゃね。

 

いやー、それは厳しいよー。

 

実は院長失うのはこれで二度目である。どんな波乱の二年送って来てんだ。

一度目は就職して獣医として働き始めて2~3ヶ月程度の時だった。この時は本当に焦ったよね。獣医は大学でみっちり医学部よろしく6年間も勉強と実習漬けになるわけだけど、そこで学ぶことなんて現場で必要な内容の5~10%程度。そこからは現場で先輩獣医の業をみて学んでいくことが絶対的に必要なんだけど、その重要なタイミングで旧院長を失ったわけ。ここで躓くとガッツリ獣医としてのスキルや自信に響くので超怖かったけど、大変幸運なことにJ院長が代わりに来てくれて生き残れたのだよ。

 

で、そんなこんなの1年半強を経て、今度はJ院長がいなくなってしまうとのお話。いやぁ、いきなりスゴイ話をぶっこんでくるじゃねぇか本部。もう一人の最近入ってきたA獣医曰く、何やらJ院長の動向が不穏、とか言ってたんだけどね、ここ3~4週間はどちらもC病院とB病院の入れ替わりで完全にすれ違い状態だったんで全然気づいてなかったのは自分だけでしょうか…。

 

が、あれだね、なんつーか、

もうどうにでもな~れ!

って感じである。

 

勿論動揺はあったんだが、割と落ち着いてる自分に逆にビックリしたのが今日の心境だわ。「ビックリするほど冷静」というフレーズが割と好きなんだけど、まさにこれである。

 

なんつーか、今までは知識と経験の乏しさに怯える日々だったんだけど、多分ここ最近ずっとC病院のヘルプを行い続けてたからですかね、なんか意味不明な自信ができつつある。

 

Out of comfort zoneという言い回しが英語にあります。

「Comfort zone」は安心できる範囲という意味で、Out ofなので『安心できる範囲外』という意味になります。

人間が成長するにはOut of comfort zone(安心できる範囲外)に出ないといけない、と言われます。実際そうで、ここまでの短い人生振り返ってみれば基本コレです。

 

英語ペラペラになるにはどうすればいいんですか><

みたいなアホみたいな質問には散々、「英語100%の世界で1年間ぶっ通しで揉まれ続けて、365回くらい涙で枕を濡らす夜を潜り抜ければペラペラになります」と答えてきました。正直地獄です。「安心できる範囲外」にも程があります。が、これで成長しました。この地獄のような経験が自分の基礎メンタルを育ててくれたのですが、今回もそれに助けてもらおう。

 

最近のC病院のヘルプに関しても自分にとってはOut of comfort zoneだったわけ。C病院には新卒ちゃんしかいない状態なんで、自分がリーダーシップを率いて病院を引っ張る状況です。意味不明の病気の子や難しい手術がバンバン自分のほうに飛んでくる環境。B病院で院長と一緒にやってる状況に比べると安心感もヘッタクレもないわけですが、おかげで自信はついた。

今日とて「猫ちゃんのキンタマ一つないですぅ~!」との看護師の叫びにも、「まぁ麻酔すりゃ落ちてくるんじゃね?無けりゃネコでの経験は無いけど腹開いて探すしかねぇな…」の一言でやり過ごす程度になってるわけで。

 

 

っつーことで、まぁ院長が辞めちゃうことで起きるゴタゴタはどうなるのかお先真っ暗ではありますが、獣医としての基礎知識と技術、そして自信はなんとか積み上げました。あとは院長が消えるというOut of comfort zoneを、成長促進剤としてポジティブに捉えることにします。

 

…昔はすげぇネガティブ思考だったんだけどなぁ、どの地点からここまでポジティブ思考維持能力を得たのだろうかね。

 

ピンチはチャンス、失敗は成功の始まりとは良く言ったもんですな。

まぁこの世界、「失敗」が直接命にかかわる分だけプレッシャーがスゴイんですけどね…(;;´Д`)

 

f:id:happyguppyaki:20180416221712j:plain

ワライカワセミさん。飄々とした表情だけど左の翼の一部を骨折してた。

 

 

しかして来月からどうすんのうちの病院(思考停止)