とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

イヌのMRIを撮る

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©CNN - http://edition.cnn.com/2016/08/31/health/dogs-words-mri-study/index.html

どうもいつぞやのAKIです。

ウチの病院におきましては着々と改装工事が進んでおり、結果的に診察室は一つだけ、大部分の手術は不可能という不便に見舞われておりますが、まぁギリギリまだ予定通りに工程を消化している模様でして、なんとかこの調子であと1週間程度で終わらしてもらいたいモノです。

 

そんな機能低下状態の我が動物病院ですが、今週のハイライトと言えばとあるワンコのMRI撮影を行ってきた、ということでしょうか。

 

MRI。Magnetic Resonance Imaging。核磁気共鳴画像法。漢字で書くと無駄に格好良いなオイ。

核磁気共鳴」とかに書き換えると最終兵器感あるよね。すっげぇ強そう。


 

医療における画像診断には色々な方法があるのですが、主に4種類に分かれます。それぞれ得意不得意があり、症状から疑われる身体の部位や暫定的診断から最も適切な画像診断法を選ぶわけですね。それぞれ比べてみましょ。

 

①超音波検査(Ultrasound)

軟部組織や水分を多く含んだ部位をリアルタイムでスキャンできます。原理は潜水艦のソナーやコウモリの発する超音波と同じで、ヒトの耳では聞こえないような超高い音波を瞬時に発し、それが組織にぶつかって跳ね返ってくるまでの時間を計測して組織の密度や距離を画像化します。

利点としては音波を使用しているので副作用が全くない事。放射線を発しないので胎児にも安心です。またリアルタイム画像を生成するのである程度の「動き」が映ること、音の感知という性質から水分の流れを映し出せる等、心臓や血流の観測でも便利。

欠点としては、超音波は密度が厚過ぎて音波の貫通できない骨や、密度が無さ過ぎて音波が貫通できない空気を含んだ組織は映せず、骨や肺には使い難い点。また、あまりに深度がある組織は鮮明な画像が映せないです。

 

②レントゲン (Radiograph, X-ray

放射線を照射して、貫通した放射線を画像化する画像診断方法。密度(正確にはX線吸収ファクター)の高い組織ほど放射線は吸収されるか跳ね返されますので、骨や水分等は白く表示され、逆に密度のあまりない空気や脂肪は放射線が簡単に貫通するのでフィルムを焼き黒く表示されます。町の病院においても最近では基本的な装備になってますね。

利点は簡単且つ鮮明に骨や空気を映せること。密度差があればあるほどキレイな画像が撮れます。

ただし欠点としては放射線による被曝があることと、密度の似ている組織(水と筋組織など)は混ざり合ってしまいイマイチ分からんことになる面。

上記の利点と欠点は、超音波検査と真逆の性質となっているので、大体はこの二つを使い分けることで臨床獣医師は生きていきます。

 

 ③CTスキャン (Computed Tomography)

こいつは簡単に言えば「超すげぇ360度レントゲン」です。基本原理はレントゲンのそれと同じで、放射線を照射して、組織に吸収されなかった放射線を画像化します。レントゲンの場合はこれが前から後ろ、右から左という二次元照射で作られる二次元画像ですが、CT検査の場合は360度から照射して、コンピューター処理により三次元画像を作るのです。スゴイ!

利点はこの三次元情報。何がどこにどの大きさであるのか、情報量は二次元のそれと比べ物になりません。レントゲンと同じ性質なので、骨や空気を含む組織が得意です。

欠点は沢山あります。まずマシンが超高価!!!ピンキリですが数千万円から数億円まで。専門病院じゃないとまず手が出ません。また被ばく量もそこそこですし、レントゲンと同じように一部の軟組織は不得意としています。

 

④核磁気共鳴画像法 (MRI

これは原理の説明が非常に大変。超絶簡潔にまとめると、めっちゃ磁力を当てて、身体の原子を磁化状態にして、そこに電磁波を当てて、帰ってくる信号から「どの組織の水素原子か」を画像化する…。うーん、あれだ、身体を電磁石みたいにして電気感じ取ってるとかそんな感じでいい←

MRIの素晴らしい面は水素を計測するという原理から水分量の多い組織を得意としており、特に血管や脳組織にその威力をいかんなく発揮する面。頭蓋骨も邪魔にならないですし。また、磁力を使った方法ですので被ばくがありません。

欠点はやはり機械が数億円くらいしちゃうことと、撮影が終わるまで1時間程、ものすげぇ音の中で動かずにいる必要があること。あと、体内に金属あるとヤバイことになります。

 

 

 で。

 

しがない町の臨床獣医師として普段から病院内で使っているのはレントゲンと超音波の2種類に限られます。超音波すら使わない病院も結構多いんですけどねー。

が、場合によってはこの2種類では太刀打ちできない症状というのもありまして、今回の場合は9歳のワンコが突然の発作に襲われ始めた、というケース。

正直な話をしますとね、この年齢で初めての発作となりますと先天的な癲癇(てんかん)の線はほぼ無く、毒物や肝臓の線も血液検査で消えているとなると、残念ながら高確率で脳腫瘍なんです。。。

で、脳腫瘍であった場合これはもう割かしどうしようもなく、脳腫瘍でなかった場合は薬でなんとかするしかない、という状況ですんで、普段であれば「発作を抑える薬を与えて、制御不能であれば安楽死です」という流れを取るのが臨床獣医師のお仕事なのです。現実的なプランの提示するのが我々のお仕事。

が、例え結果が最悪だとしても、しっかりとした答えを知りたいという人も勿論いるわけでして、そういう場合には確定診断のための手段を提示するのもまた獣医師のお仕事。今回の場合は飼い主さんが「できる限りのことをしたい」との事でしたので、MRIに移行しました。

 

しかして相手はMRIです。うちみたいな小っこい動物病院が持ってるようなシロモノではありません。というか動物用MRIなんて国に数個あるかどうかの世界だろ。

ではイヌやネコがCTスキャンMRIが必要になった場合はどうするかというと、人間の病院にお邪魔して撮影させてもらいます。

我々獣医師が直接レントゲン技師のいる病院に「イヌの脳のMRI撮りたいんスけど」と連絡すると、向こうから時間指定が来るのでその時間にお邪魔させていただき、獣医師が患畜の健康状態を維持する中、人間のレントゲン技師さんがCTないしMRIの撮影を行うのです。

別に隠すような事でもないんですが、一応はイメージというものがあるので、人間の病院にお邪魔する際はお忍びです。時間指定も人が少ない時間帯や診察時間外で、裏口からコッソリと入って行います。病院なんで殺菌消毒は勿論行き届いていますが、まぁ、清潔感というイメージを崩さないように動物の搬入は見えないところで行われます。

 

ここからが問題ですよ。

レントゲン技師さんはあくまで人間のレントゲン技師さんです。MRIは撮れるけど、その画像診断はできないしましてやイヌの管理なんぞできません。その辺は全部獣医師が負担します。MRI撮影が始まる前にカテーテルを入れ(頭はMRI内に入るので後足に入れます)、人間の病院まで搬送し、麻酔を施し、その麻酔を持続定量点滴(CRI)でキープしつつバイタルを見守り調節していき、画像が撮れたらそれをレントゲン獣医技師(画像診断に特化した獣医師)にメールで送りつけて診断結果を待ちます。

 

人間なら「はいじゃあ1時間動かずジッとしててください」で済むんですけどね、こちとら発作起きまくるイヌに点滴麻酔ですよ…。

 

しかもMRI室です。超絶磁場フィールド内で1時間も麻酔を見守るわけです。注射針も時計も聴診器も、磁力に吸い寄せられる金属製品は全て持ち込み不可能。怖い。でも間違って注射針なんてポケットに入っててみなさい、ダーツの如く宙を舞って飛んでいく。怖い。

一時間近くずっとMRIの騒音内で、「ぽっぽっぽー、はとぽっぽー♪」と内心歌って心拍数計ってましたよ。この歌ちょうど60BPMで時計が無いときマジ便利。いやまぁ部屋の外の時計見えてたんだけどな。

しかしAlfaxaloneの持続定量投与点滴麻酔はすごく安定してた。4-5mg/kg/hr、皆さんもお試しあれ(できない)。

 

画像の診断結果待ちだけど、うーん、症状的にはキビシイんだよなぁ…。

とにもかくにも、MRIやCTを撮ろうと思えば撮れるのはありがたいモンですね。面倒だけど。