とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

Out of comfort zone

いやー、なんというか、人生の転機とは突然に訪れるモンですな。

 

今日も今日とてC病院のヘルプだったんですけど、朝から会社の本部とネット通話を使った緊急ミーティング。なんかC病院に問題でもあんのかと思ったらなんだか自分まで強制参加。

 

本部「えー…複数の報告があります…」

全員「うむ」

本部「まずですね、5月13日から2か月分、C病院の代診医が確保できました」

全員「おぉ」

本部「ということで、AKIとJ先生のC病院のヘルプは5月上旬を持って終了となります…」

全員「うむ」

本部「えー…っとですね…それでですね、そのタイミングを持ってJ先生はお仕事を辞めます」

全員「うむ……ん?」

AKI「どういうことだってばよ?」

 

本部「J院長、5月上旬を持ってB病院もC病院も辞めて、ゴールドコーストの病院に移転してもらうことになりました…」

 

…(´・ω・`;;)

 

 

??(  ´・ω・`)

 

 

はい。

来月、院長とサヨナラです。

 

 

やべぇ。どうすんのこれ。

つまるところ来月からうちの病院に残されるのは自分ともう一人最近入ってきた獣医(6年の経験あるけど子供産んで7年のブランク有)の2人ってことやで。もう一人はフルタイムじゃないから、これ現実的にみて自分メインで病院回していけってことじゃね。

 

いやー、それは厳しいよー。

 

実は院長失うのはこれで二度目である。どんな波乱の二年送って来てんだ。

一度目は就職して獣医として働き始めて2~3ヶ月程度の時だった。この時は本当に焦ったよね。獣医は大学でみっちり医学部よろしく6年間も勉強と実習漬けになるわけだけど、そこで学ぶことなんて現場で必要な内容の5~10%程度。そこからは現場で先輩獣医の業をみて学んでいくことが絶対的に必要なんだけど、その重要なタイミングで旧院長を失ったわけ。ここで躓くとガッツリ獣医としてのスキルや自信に響くので超怖かったけど、大変幸運なことにJ院長が代わりに来てくれて生き残れたのだよ。

 

で、そんなこんなの1年半強を経て、今度はJ院長がいなくなってしまうとのお話。いやぁ、いきなりスゴイ話をぶっこんでくるじゃねぇか本部。もう一人の最近入ってきたA獣医曰く、何やらJ院長の動向が不穏、とか言ってたんだけどね、ここ3~4週間はどちらもC病院とB病院の入れ替わりで完全にすれ違い状態だったんで全然気づいてなかったのは自分だけでしょうか…。

 

が、あれだね、なんつーか、

もうどうにでもな~れ!

って感じである。

 

勿論動揺はあったんだが、割と落ち着いてる自分に逆にビックリしたのが今日の心境だわ。「ビックリするほど冷静」というフレーズが割と好きなんだけど、まさにこれである。

 

なんつーか、今までは知識と経験の乏しさに怯える日々だったんだけど、多分ここ最近ずっとC病院のヘルプを行い続けてたからですかね、なんか意味不明な自信ができつつある。

 

Out of comfort zoneという言い回しが英語にあります。

「Comfort zone」は安心できる範囲という意味で、Out ofなので『安心できる範囲外』という意味になります。

人間が成長するにはOut of comfort zone(安心できる範囲外)に出ないといけない、と言われます。実際そうで、ここまでの短い人生振り返ってみれば基本コレです。

 

英語ペラペラになるにはどうすればいいんですか><

みたいなアホみたいな質問には散々、「英語100%の世界で1年間ぶっ通しで揉まれ続けて、365回くらい涙で枕を濡らす夜を潜り抜ければペラペラになります」と答えてきました。正直地獄です。「安心できる範囲外」にも程があります。が、これで成長しました。この地獄のような経験が自分の基礎メンタルを育ててくれたのですが、今回もそれに助けてもらおう。

 

最近のC病院のヘルプに関しても自分にとってはOut of comfort zoneだったわけ。C病院には新卒ちゃんしかいない状態なんで、自分がリーダーシップを率いて病院を引っ張る状況です。意味不明の病気の子や難しい手術がバンバン自分のほうに飛んでくる環境。B病院で院長と一緒にやってる状況に比べると安心感もヘッタクレもないわけですが、おかげで自信はついた。

今日とて「猫ちゃんのキンタマ一つないですぅ~!」との看護師の叫びにも、「まぁ麻酔すりゃ落ちてくるんじゃね?無けりゃネコでの経験は無いけど腹開いて探すしかねぇな…」の一言でやり過ごす程度になってるわけで。

 

 

っつーことで、まぁ院長が辞めちゃうことで起きるゴタゴタはどうなるのかお先真っ暗ではありますが、獣医としての基礎知識と技術、そして自信はなんとか積み上げました。あとは院長が消えるというOut of comfort zoneを、成長促進剤としてポジティブに捉えることにします。

 

…昔はすげぇネガティブ思考だったんだけどなぁ、どの地点からここまでポジティブ思考維持能力を得たのだろうかね。

 

ピンチはチャンス、失敗は成功の始まりとは良く言ったもんですな。

まぁこの世界、「失敗」が直接命にかかわる分だけプレッシャーがスゴイんですけどね…(;;´Д`)

 

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ワライカワセミさん。飄々とした表情だけど左の翼の一部を骨折してた。

 

 

しかして来月からどうすんのうちの病院(思考停止)

 

コウモリと狂犬病と、動物感染症研究所

 

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麻酔でぐっすりコウモリさん

イヌに襲われてしまったというコウモリさんが来ました。

時間もあったし、骨折とかは無い様子なのでとりあえず傷口を縫ってみることに。

 

こういう時はあれです、基本もうアドリブです。「イヌだったらこう縫う」の勢いで縫ってみます。同じ哺乳類だもの。ただまぁ抜糸はできないので、時間と共に溶けて自然に落ちる素材を使います。

 

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傷口。結構バッサリと開いてましたが奇跡的に筋肉も骨も大丈夫だった

縫っちゃった。あとは抗生物質さん、お願いします。

 

コウモリは実はこの業界で嫌う人が多かったりする動物。とにかく色んな細菌やウイルスの温床になってる傾向があるんですよね…。

 

オーストラリアは世界的にもかなり限られている狂犬病清浄国でございます。

いや、「狂犬病フリー(Rabies free)」と認められた国は現在では沢山あるんですよ。これの定義はアメリカ疾病管理予防センター(CDC)が認める、「一定期間狂犬病発症例が無い、疾病制御状態にある国」なので、日本国も狂犬病を制御できているRabies-freeの国の一つです。

しかし日本は過去に狂犬病が蔓延した国であり、現在も「完璧に狂犬病を撲滅したとは言い切れない」というスタンスを貫く必要があり、予防のためペットの狂犬病ワクチン接種は義務付けられてます。隣国と陸地が接していない島国であってもまだ警戒しないといけない、大変な病気なのです。人間の致死率ほぼ100%ですからね…

が、オーストラリアは世界的にも珍しい、狂犬病の発症例が皆無という完全クリーンな国。この発症例皆無という国は他にはメジャーなところでニュージーランドノルウェー、あとはマイナーな小国の島々しかありません。

だからオーストラリアではワンコに狂犬病ワクチンの必要性はありません。我々獣医師も狂犬病ワクチンを打っておらず、暴れまわるイヌに咬まれても「痛ぇ」の一言で済みます←

狂犬病発生例ゼロってすごいことなの。そしてそれを現在も死守してる税関の前線部隊には頭が上がりませんな。

 

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脚可愛い。どうしても羽根に見えるから手足の存在がやはり不思議だ

で、なんでいきなり狂犬病の話を書き始めたかですよ。

 

オーストラリアに狂犬病ウイルスないないと言ったな。

あれは嘘だ。       ウワァァァァァァ

 

狂犬病ウイルスは「リッサウイルス属」の一属なんですが、このリッサウイルスの中に「Australia bat lyssavirus(ABLV)」という仲間が存在するのです。もう名前そのまんまなんですが、こいつはコウモリをホストとするウイルスちゃん。コウモリから人間へと直接感染することが可能な、立派な人獣共通感染症です。感染しているコウモリに噛まれることで発症するという点からも、こいつは立派に「オーストラリア版の狂犬病」なのです。

 

まぁこいつを持ってるコウモリ自体は吸血コウモリではなく、基本的にフルーツを食べて暮らしてる温厚なベジタリアン共なので、公共衛生的には別段問題ないんですよ。人間の発症例も偶発的なモノが多く、たまたまコウモリに触れる機会があり、偶然咬まれてしまったというケースばかり。普段暮らしている分には全然気にしなくて大丈夫なんだけど、動物の保護を行うボランティアや、コウモリを診る獣医は気を付けないとイカンのです。

ABLVの人間用ワクチンもあるので、コウモリを頻繁に診る場合にはちゃんと予防接種を受けよう。

 

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麻酔から覚めたけどまだフラフラ。可愛い。

 

ちなみにいわゆる「ゾンビ」を扱うフィクションのほとんどが、ゾンビウイルスはリッサウイルスの進化形として取り上げます。狂犬病ならぬ狂人病なわけですが、もしかするとゾンビパンデミックの発端はオーストラリアでコウモリに噛まれた野郎、という可能性も…

 

 

割と冗談じゃなくて、そういう特殊な環境が存在するオーストラリアは人獣共通感染症とそこから浮かぶ公共衛生の研究にしっかり力を入れている世界でも数少ない国の一つ。

 

いわゆる「研究所」には世界共通のバイオセキュリティーレベル(BSL)という数値がそれぞれに存在していて、4段階評価でどれくらいヤバい研究をして良いかというのが定められているのです。

レベル1(BSL-1)は「まぁ研究室で飲食しなけりゃいいよ」程度のセキュリティーで、ヒトや動物に感染症を起こす可能性の低い微生物しか扱ってはいけませんが、

レベル4(BSL-4)になると「完全隔離」「完全防護服での入室絶対」「通り抜け式オートクレーブ設置義務」等々、バイオハザードかかってこいや!みたいな安全性の塊りをもった施設になります。それこそバイオハザードが起きてしまったら完全にシャットアウトできるように、施設の一部が水中にあったりするとか何とか。こういう施設に限り「毒性・感染力の高い病原体」「治療法が確立していない病原体」等の研究が許されている、人間属の最後の砦。

 

レベル4の研究所は先進国でも所有国が少ないようなツワモノで、日本では国立感染症研究所が現状唯一のBSL-4研究所理化学研究所もBSL-4運用は可能)。ここでは何扱っても良いんですが、基本的には人間の病気に関する研究をします。

一方のオーストラリア。なんというか、「Australian Animal Health Laboratory (AAHL)」という、動物感染症及び人獣共通感染症専門のBSL-4研究所を持ってます(その他に人間用のBSL-4研究所が2つ)。この国の疫病管理体制はガチなんです。

観光客の皆さんはオーストラリアに来たとき税関で色々と食糧の破棄処分や罰金を喰らって文句言いますが、この国は畜産大国であり固有動植物の宝庫なんです、それを守り監視するため、動物専門のBSL-4研究所を建てるくらいには本気なんです。そこだけでも分かってください。

 

 

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Australian Animal Health Laboratoryとその周り

AAHLの隣りにゴルフ場や畑があるのは「研究所の半径1.5kmで家畜や愛玩動物の飼育を行わせないための処置」だったりする。

 

ちなみに動物感染症専門の研究機関はオーストラリアのAAHLを含めて世界に六ヵ所しか無い。宇宙人が地球にやってきたらサンプルはこの6ヵ所に来るのであろうか...。

 

 

生物兵器の強さとは

どうも、イースターの週末を満喫中のワタシデス。

いやー、On-call(週末当直)の無い世界線って本当に良いですね。キリスト教文化におけるイースター、つまり「復活祭」はその名のとおり、十字架に磔にされたキリストが3日後に復活したことを記念する祝日。基本的な行事としては、イースターバニーやイースターエッグを象ったチョコレートを家中に隠し、それを子供達が探し回って食べる、といったようなことをやります。多産のウサギや一見動かずとも生命を生み出す卵が復活の象徴とされているわけですが、なんてこたぁない、もはや日本のバレンタインデーも恥ずかしくないような「チョコレート食べる日」になりつつあると日本人感覚からしたら思う訳です。

 

で、獣医達はイースターってのが近づくと、

「お前らアポモルヒネと活性炭の用意はいいか!」

みたいな臨戦態勢になる。アポモルヒネってのは催吐(吐き気を強制的に起こす)のお薬です。「モルヒネ」って名前についてるから個人的には薬物中毒の泥棒に持っていってほしいお薬第一位。

 

イースターってのは皆さん大量のチョコレートを購入し、それを家中にばら撒き隠すイベントと言っても過言ではないのですが、これってつまりアホなイヌネコがチョコレートを嗅ぎつけて大量に食べてしまう日なのだ。

チョコレートに含まれるカカオはイヌネコにとっては毒物で、大量摂取するとチョコレート中毒になり、特に多量摂取の場合は筋痙攣や呼吸困難まで起きちゃう案外凄いヤツ。いやまぁこの摂取量ってのはカカオ依存なので、ミルクチョコレートみたいなカカオ濃度の低いチョコなら小型犬でも板チョコ数枚食べない限り中毒起きないんですけどね、ビターチョコとかだと結構危ない。

で、食っちゃったものは早急に吐かせるのですが、当直時の催吐は割かし面倒。個体差によって吐く時間も回数も違うから目を離せないし、看護士さん達もいないから床の掃除も全部やらないといかんし、そんでもってワンコ本人はケロッと「何か問題でもあります?」みたいな健気な表情向けてくるのである。

 

今日明日当直の皆さん、お疲れ様です。ゲロ臭いッスね。

 

 

閑話休題

 

 

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立ち上げ当時はまぁ細々とキレイな水だったのですがね

当直の無いイースターは水槽作業と相場は決まっています。

せっかくオーストラリアにいるんだしオーストラリアンクローバーでもモッサリさせるか、みたいなノリで水槽を一本立ち上げて、さて野生のオークロを探してみると、あれま残念、自分の暮らすケアンズはどうも北側で暑すぎるのか、見つけられる範囲での自生はどうやらしていない模様…。

しゃーないので通販で購入して水槽にぶち込み、ついでに固形肥料もぶち込んでおいたのですが...

 

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糸状藻…

いやぁ、何とも初歩的なミスを冒してしまったのです。どこのアホが植えたとたんに追肥しろと…

しかもここはオーストラリアの片田舎。日本の水槽業界と違って全くと言っていいほどモノが揃いません。ソイル売ってないのよ?通販では買えるんだけど非常にお高い(ADAとか日本からの輸入品だもの)。そんな世界なんで水草用の固形肥料なんかも馬鹿みたいなお値段します。そんなアホらしいモノを買ってはいられないので、日本で言うところの30年前くらいの手法ではございますが、園芸用の肥料を使っておるのです。

そんでもってこいつの使い方を間違えるとこうなる。

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ぎゃああああああああああ

おうふ。

いやオークロさんも伸びてはいるんだが、それ以上にコケの勢いがマッハです。1日で一気に水槽呑み込まれました。

園芸用肥料(一応は水中植物用)はどうしても水槽という限られた環境で使うには限度のあるモンなんで、追肥しすぎると一気に窒素・リン・カリウム全てにおいてアホみたいな栄養過多になりおる。特に窒素とリン。水草が吸いきれず、水替えが1日遅れればその栄養は全てコケに持っていかれます。え?濾過強化しろ?メンドイ。

 

ここまで栄養過多になると多分窒素量が多すぎるんでしょう、エビも死滅します。

これは・・・詰んだ・・・。

 

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リセットォォォ

サーセン、リセットします。メンドイ…。

固形肥料を全部取り除き、コケをなるたけ除去して、新水で再起。

コケに飲まれたオークロさん達も古い葉は全部捨てて、新芽を丁寧に洗いなるべくコケを除去…

 

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植え直す。流木は乾燥処理のため取り出したから殺風景。

リセットしたら生物兵器の投入です。レッドチェリー先輩とアルギイーター先輩(オトシン手に入らねぇ…)をぶち込んでおきます。メインの敵は糸状藻なので、なんか余ってたソードテールさんも気休め程度にぶち込みます。

コケに呑まれた水槽みると本当にエビの偉大さを再認識しますよね。

ついでだから活性炭もぶち込んでおこう。普段は使わないんだけど、こうなりゃ化学兵器戦も追加だ。

 

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現状。殺風景だがコケの無い水槽は落ち着く…

とりあえずここ2週間は安定しました。ふぅ・・・。

追肥は慎重に。

 

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あぁ~!酸素の気泡ぉ~!(水素音風に)