2月上旬
COVID-19の存在がアジアを中心に周知され始める。
オーストラリアでは至って普通の生活のままである。
ニュースでは時折新型コロナウイルスについて触れるが危機感は全くない。
2月8日
自分の動物病院に近くの大学病院からタレコミが入る。
政府はマスク等のPPEの流通をヒトの病院に優先するため、一般流通を制限するとのお達しが大学病院に入ったそうで、近辺の動物病院各位もストックの枯渇に注意せよとのこと。
「まぁ200枚くらいあるから大丈夫だろ」とは院長の言葉。
2月17日
オカンが豪州から日本に帰国するにあたり、近くの薬局に消毒剤を探しに行く。
日本では既にマスクもエタノール系消毒剤も品切れであるため、豪州から持ち帰る算段であったが、近所の薬局ではアルコールジェル系統の消毒剤はほぼ全て売り切れであった。
どうやらオーストラリアでも一部の人間がこういった物は既に買い占めているようだ。
辛うじて2つだけ残っていた20~30mL程度のジェルサニタイザーを購入。
「エタノール70%がなんだかんだ一番便利だぞ」
とアドバイスし、スーパーの掃除用品売り場で工業用エタノール95%の1L入りを購入。
一つのスーパーでは売り切れていたが、もう一つのスーパーには普段通り20本程おいてあった。
こちらはまだ目を付けられていないようである。知識は力なり
2月19日
オカンが日本に帰国。日本行きの飛行機はガラガラである。新型コロナの風評被害は大きい。
並んでいるアジア人は皆がマスクを着用している。一方で白人はほとんどしていない。
危機管理能力が違うというより、単純にアジア人がマスク慣れしているせいか?
2月26日
日本で急速に新型コロナへの関心が広がっていく。ツイッター上でも感度や特異度といった言葉をよく見るように。
2月28日
日本、唐突な全校休校宣言を発令。オーストラリアではあまり話題にならない。
自分用にも工業用エタノール1Lを購入し自宅にストックする。まだ普通に売っていた。
観光業主体のケアンズは街が閑散としている。外国人観光客(特に中国)が来ない。
3月6日
日本の休校宣言から約1週間。オーストラリアは通常営業である。
海外渡航歴のある連中から散発的に新型コロナが出るものの国内で問題がある兆候はない。
3月1日にオーストラリア人初の死者は出ているものの(ダイヤモンド・プリンセスから降りた老人)、新たな感染者は一日10人に満たない。
オージーは基本的には普段通りの通常営業。ただしトイレットペーパー買い占め騒動が勃発。全国のスーパーからトイレットペーパーが姿を消す。
3月12日
それまで新感染者数が10人/日に満たなかったのが、ここにきて一気に50人/日程度に加速。
俳優のトム・ハンクスがQLD州で映画撮影中にコロナ陽性、自主隔離に入る。
この辺りから全国的にニュースとして流れコロナウイルスの名前を聞かない日は無くなりつつある。
豪首相、17億ドルを第一次経済刺激策に投入
3月14日
ニュージーランドが新型コロナ対策として入国者に14日間の自主隔離を申請。
3月15日
オーストラリアも後を追う形で入国者(国民・外国人問わず)に14日間の自主隔離を申請。唐突な政府の動きに各地でパニックが発生。食料品の買い占めが横行する。
米、小麦、パスタは完全にスーパーから姿を消す。缶詰類も品薄に。
トイレットペーパーを目にしなくなってからしばらくするがまだ無い。
3月16日
生徒3人に陽性反応が出たためクイーンズランド大学は全ての講義を停止。
各州が感染対策に独自の取り決めを始める。
WA州とNSW州は学校行事で500人以上が集まる運動会等の禁止措置を発令。
3月18日
豪州、全海外渡航禁止例を発令。全世界的に本格的な鎖国体制に入り始める。
各国で豪州に帰国しようと壮絶な帰国便確保パニックが発生。
フィリピンから豪州への便がチケット一人$1300したらしい。
3月19日
クルーズ船「ルビープリンセス号」の乗船者2700人がシドニー港より国内に受け入れられる。14日間の自主隔離が条件とされた。
この頃より新感染者数が100人/日を超え始める。
自宅周りでは相変わらずマスクを着けた人をみない。
動物病院のほうでは何故か一日の売り上げで過去最高額を叩き出した。
3月20日
ルビープリンセス号がら下船したうち症状を訴えていた13人中3人のコロナ陽性を確認。シドニー中心街の閑散とした風景がニュースでよく流れる。NSW州は感染の中心となり始めているようである。
ケアンズにて初のコロナ陽性が出る。周りは「ついに出たか」といった反応。
小麦もパスタも米も肉もスーパーでは手に入らない。
3月22日
豪首相、Non-essential serviceの事業停止を23日正午より実施するよう要請。
パブや映画館、娯楽施設は全て営業停止措置を取る。
レストランにおいては持ち帰り以外は禁止。
また、66億豪ドルの第二次経済刺激策を投下。
3月23日
求職者と給付金を求める人の山で職安がパンク状態。
あと酒屋にも長蛇の列ができる。
正午よりNon-essential serviceの営業停止と言われていたが、午後になっても開いているは多かった。そりゃそうである、昨日の今日で営業を止められるような経済状況ではない。
この日、新たに350人の新感染者を確認、国内最悪の数となる。
動物病院は外来数激減により暇なので自分は有休を消費。
飼主は呼ばれるまで車内待機、患畜を連れてくるのは健康な大人1人だけという取り決めを実施。
3月24日
獣医師庁(Vet Surgeon's Board)より緊急連絡用メールが届く。
内容は「貴方の動物病院で使ってない人工呼吸器があれば数を把握しておきたいので連絡せよ」
同日午後、今度はうちの動物病院にケアンズ総合病院から直接電話で「人工呼吸器を持っているか」と相談。
ただ単に数の把握を計っているだけだと信じたい。
3月25日
状況記録の意味があると判断しこの記録を付け始めた。
午前現在の総感染確認数2252人、死者8名。
WA州でアルコールの購入数に制限がかかる。買い占め対策の模様。
首相、Elective surgeryの先延ばしを義務化。病院の余力を確保する策。勿論急を有する医療行為は通常営業。おっぱい豊胸手術できないね…。
全国的に規制レベルがStage-2に移行。23日に執行されたStage-1から更に厳しくなり、
結婚式参加は5人まで、葬式10人まで等の制限が加えられる。バースデーパーティーやBBQでの集まりも禁止される(が、細かい人数制限は記載されず)
ヘアカットに行ったがこちらも顧客数が減っているほか、Stage-2の規制で一人30分以内で仕事をしなくてはならないらしくカラー等できなくなっている模様。美容師さんの子供達は学校に行かせず自宅待機にしたらしい。
学校はまだ機能しているものの親のこうした判断には問題なく休みを与えてくれている。
3月26日
午後現在の総感染確認数2799人、死亡13名(昨日午後に3、今日2)
ケアンズ周辺で新たに2人の感染が確認された。両者とも、分院のある町である。今週も金曜(明日)と土曜はこの分院のヘルプに行く筈であったが、会社の上から長距離移動に関して待ったがかかった。どうやら明日も本院勤務となりそうである。
先週は売り上げ最高額を叩き出した木曜日であるが、ただの1週間で状況は凄く変化した。忙しくない。先週までは「もしコロナで営業停止になったら病欠(有休)が足りない人には前貸しをする」と会社は言ってたが、撤回した。長期化と不利益を悟ったのだろうが従業員としては撤回という事態に不安である。
このままだと給料貰えなくなってしまうのではないか。心配である。資格持ち正規雇用フルタイムでも心配になる程度なのだから他の人の不安は計り知れない。
スーパーに立ち寄った。背中がくの字のおばあちゃんがヨロヨロ買い物をしていた。心配だ。精肉コーナーの鶏肉に「一人1kgまで」の制限が加わっていた。いつも2㎏買いしているのでツラい。というか、そもそも鶏もも肉は売り切れていた。
各州の警察が取り締まりを強化し始めた。
海外帰国者の家の抜き打ちで訪ねてちゃんと自主隔離を実行しているかのチェック。数人が不在であることが判明。
必要最低限と見なされていない店も抜き打ちで尋ねられて店仕舞いを言い渡されている。営業を続行していたマッサージ店の店長に罰金$5000、従業員3人にそれぞれ$1000だそうだ。見せしめの意味が強いだろうが、強行的な抑止にどれだけの不満の膨らみと疫学的効果が期待できるのか分からない。相対的にそれはプラスになるのか。
3月27日
午後現在の総感染確認数3166人(+367)、死者13名。
現在の国家規制レベルはStage-2であるが、うちの病院では近々Stage-3になるであると呼んでこれの予行演習。(看護師の一人の母親が消防署で働いているが、そこからのオフレコタレコミ曰く来週月曜(3日後)にはStage-3になるらしい)
病院内の受付を封鎖し、病院の外の駐車スペースにタープとテントを張りここを臨時受付とした。グローブ装備の受付が初見と患畜を受け取り、これを病院内に移動、獣医が診察後、電話越しで飼い主と話して治療プランを立てる。
非常にやりにくいし時間もかかるが、Stage-3になるとFace-to-face consultationが禁止になるのでこの方法しかない。
他の誰もやらなかったが自分は1日ずっとマスクを着けて行動してみた。息苦しくも無いし、何よりふとした拍子に鼻や口を触らないのでやはりマスクはそういった意味で有効だと思う。
ペットフードの売り上げが普段より伸びている気がする。物流の混乱でネット通販で買った物が届くのに時間がかかっているパターンか、買いだめの動きがあるのか。フードはほぼ定価に近い値段で売っているので減った客足の助けにはあまりならないなぁ…
豪州獣医師協会の粘り強い交渉の成果か、農水大臣に「獣医療はEssential Serviceである」と明記させることに成功した。これで今後規制レベルが上がっても強制的に商売停止にはならないであろう。安心要素だ。
大きな会社がことごとく解雇の嵐を吹かせていて本格的に経済と失業率が心配になる。
一方で客足の止まらない大手スーパーマーケットは一時的な雇用を増やしているようで、ここの求人に求職者が殺到している模様。
いずれにしても数年にわたるダメージになるだろう。
恐ろしい事にQLD州では明日が投票日である。このタイミングでまだ投票を行うのはどうなのか。投票会場には1.5mおきに線が引かれていて、人が近づき過ぎないようにしているが、果たして効果はあるのか。
この辺の意識はまだまだ低すぎる。こちらは気をつけていても、気にしてないオージーがどんどん間合いを詰めてくることが頻発している。
3月28日
午後現在の総感染確認数3635人(+469)、死者14名(+1)。
鳥肉が切れたので買いに行く。Woolworthsでは売っていなかったがColesでは手に入った。パスタも小麦粉も米も相変わらず売り切れである。そして今度は砂糖が売り切れた。炭水化物か?炭水化物なのか!?
近所のショッピングモールは土曜日にしては閑散としているほうである。普段の1/3かもっと少ないか。店の対応はまちまちで、閉めてる店も多い中、明らかにEssentialではないタバコ屋や服屋が開いていたりもする。まだStage-2で罰金での取り締まりが無いQLD州なので緩々である。
マスクをして買い物をしている人を数人見た。初めてみた気がする。
ラジオでは盛んに豪州近辺に停泊している他のクルーズ船の扱いについて語っている。政府は、数十隻と停泊しにっちもさっちも行かないクルーズ船の乗客を豪州に上陸させる流れである。上陸後はホテルに14日間隔離される。「囚人のような扱いではない」と政府が言っちゃうくらい、条件としては軟禁である。
QLD州では今日が投票日であったが、かなりの人数が期日前投票に行っていたようだ。
しかし週末であり本来の投票日である今日はやはり人が殺到した。会場によって消毒剤が足りず個人に支給されなかったようだ。投票会場のブースに置かれているペンはヒモで繋がれているアレである。使いまわしだ。
個々が消毒していたとはいえ、果たしてどこまで効果はあったのか。消毒ってContact timeが重要なわけで、意外と奥が深いのだが。素人にやらせて効果あったの?
世界的にはイギリス首相のボリスジョンソン氏がコロナ陽性となった話で持ち切りだ。一方でブラジル大統領は経済を回すことを優先し、ある程度の犠牲はやむを得ないと表明。お金の無い国では仕方ないのかもしれない。
3月29日
午後までの総感染者数3969人(+334)、死亡16名(+2)。
家にて引きこもる。外の現状不明。
海外からの帰国者やクルーズ船の下船者に対する14日間のホテル軟禁隔離が執行され始めた。空港で一般人を出迎えるのは大量の警察と軍服にライフル装備の国防軍の姿である。まるで戦時中か、VIPの護送を呈している。
帰国者はその場で健康診断を受けたあと、指定されたホテルへ指定されたバスに乗せられ送られていく。ルームサービスだけでこれから2週間を生きるのであろう。
友人達と話す機会があった。観光業に関連した職業の2人は大打撃でいよいよ先が見えないらしい。とりあえず補助金の申請をしたが、まだ連絡は返ってきていないとのこと。仕方なしにNetflixを見る毎日のようだ。
もう一人はCasualで学校の先生をしているが、こちらもQLD州は早々に1週間早い秋休みに入り事実上の学校封鎖で仕事が危ないらしい。
やはり周りの人間はみな大打撃を受けている。まだ「仕事が無い」状態なだけだが、ここから現実的な金欠が襲ってくるのであろうか。
「もしこのまま無職無収入が続いたら日本に帰って田舎の古民家貰ってマタギになるしかねぇ」とは友人談。実際、帰国せざるを得ない状況になる日本人も多いだろう。問題は帰国した先の日本も不況だと思われる点だが。
「こんなに人と喋ったのは久しぶりだ」という友人の言葉が重い。普通に話していただけだが、喉が枯れていた。
3月30日
午後までの総感染者数4163人(+194)、死亡18名(+2)。
日本ではこの日に志村けんが無くなった。悲しい。国民全員の「慣れ親しんだオジサン」の死は日本への啓蒙として大きな役割を果たすことになると思う。
豪首相は今日をもって事実上のStage-3に移行すると発表。
家族以外の「集会」の上限をこれまでの10人から更に下げて2人までにする、
経済難における家賃滞納者の借家からの追い出しを今後6ヶ月禁止、
70歳以上の老人はいかなる理由でも外に出るず自主隔離せよと警告、
他の国民には以下の4つの理由以外の外出をするなと強く警告:
・必要最低限の買い物
・医療的なサポートや介護
・運動(ただし集会は2人まで)
・仕事/教育(自宅で出来ない場合)
第三次経済刺激策として130億豪ドルを投下し、仕事が減った人への収入援助に充てることを決定。具体的にはそれぞれの会社に対し、昨年度より30%以上売り上げが下がっている場合、12ヶ月以上働いているスタッフの給料を、これまで稼いでいた金額に関係なく2週間毎に$1500ドル保証。これにより急速な解雇やStand-off(休業)による無収入者と無職者の増加に歯止めをかけるつもりのようだ。
現状の仕事に就いているが休職状態及び売り上げが下がり生活が厳しい人
→Job keeperで1500ドル/2週
現状の仕事を解雇され求職中の人
→Job seekerで1100ドル/2週
このどちらかの給付金で生き延びてくれという話である。昨日の友人達はどちらを得られるのであろうか…。
多分自分の会社も申請できると思われる。特にニュージーランド支部が無収入状態の今、売り上げ30%減少は到達しているであろう…。国の予算は大丈夫なのか。しかし今はそんなこと言ってられない程、国民の生活に対する不安が大きい。
尚、対策予算の一部を精神衛生やDV対策に充てる面は世界に先駆けている。評価したい。
3月31日
午後までの総感染者数4557人(+394)、死亡19名(+1)。
今日も家に引きこもっているので外の状況は分からない。芝刈り機の音が聞こえる。隣りのうちのオッサンの声も聞こえる。普段通りである。
このまま経済ダメージが続けば国民の3割が4月末までに破産し困窮するとの試算が出た。どんだけみんなその日暮らしをしているんだ。
ビクトリア州では銃火器免許の申請が2倍に増えたため一時的に申請を受け付けなくしたらしい。みんなヒャッハー世紀末を目指しているのであろうか。
また、各地でアルコール飲料の購入数制限が厳しくなってきた。買い占め対策である。
オージーの買い占めは先に述べた通りの炭水化物系の他に、アルコール、DIY用品、そしてダンベル等の筋トレ用品が主である。
アルコールは言わずもがな。ビールは通貨として機能する程度に彼らには日常的に必要なものである。自分は酒を飲まないので状況は知らん。
DIY用品もここにきて大量に売れている。なまじ仕事もなく家にいるので「あ、屋根直そう」「あ、壁のペンキ塗り替えよう」が多発しているのである。
そしてダンベルの買い占め。ジムが閉鎖されたためであるが、これはもうただの脳筋としか言いようがない。
NSW州では機動隊を動員してビーチでくつろぐ面々を強制退去させている。「ビーチでくつろぐ」「日光浴」は外出理由に含まれない為(運動は可)
同じくNSW州、アジア系移民に対して暴言を吐き唾を吐きかけた17歳の少女が逮捕。
感覚としては大きな街ほどフラストレーションが溜まっているように見受けられる。
自分の会社が新たな方針を決定。病院内のスタッフを2チームに分け、交代制で働くことを決定。チーム間での一切の接触を断ち、もしも片方のチームからCOVID-19感染者が出た場合、そのチームを2週間の自己隔離、もう片方が仕事を持たせる。
リスクマネジメントであるが、これによりここから先毎週末の仕事が決定。
どうせ遊びに行くことも友人に会うこともできないので、毎週末が仕事でも支障はない。しかし新しくメンバーに入ってきた獣医師さんと一回も顔を合わせる間もなく接触を断たれてしまった。
記録は今後も主観・客観の両視点で書いていこうと思う。