
ラットが品切れだったんでウズラ買ってみた。
ラットよりデカくてお得感ありますね。しかしこれ大きさ的に喰えるんだろうか…。
ハイジちゃんはやる気十分でテンションMAXですが。

吶喊!
でけぇ。

フブキ君もいただきます。
こっちも単純に見た感じでは思いっきり「入らないだろ…」感丸出しですが...

まぁ、そこはヘビですよ。顎が外れるとかいう概念のない連中です。
口を180度開けて、皮膚を2~3倍に伸ばして、グイグイ突っ込んでいきます。

ハイジちゃんはゴリ押し派、フブキ君は頭脳派。
「バキッ!」と激しい音がしたんですけど、フブキさん…貴方これ完全に締め上げてウズラのキール(胸の骨)折りましたよね…
砕けば喰える(物理)


満足げな二人。入っちゃうんだなぁこれが。
で。
ここで終わってしまうとただの近況報告です。それではいけません。情報発信をこのブログの存在意義としたいのです。
というわけで、栄養学のお話をしましょう。
爬虫類を飼っている人であれば気になるのが「栄養価」でございます。まぁヘビの場合は餌の丸呑みで、「動物の身体を構成する栄養素」を全て取り込んでしまうので大して問題にならないとされていますがね。
ヘビさんに与えられる餌ってのは色々と存在します。マウス一つでもサイズが色々ありますが、他にもウズラ、ニワトリ、ウサギ等、結構色々と冷凍して売られているのです。一般人には理解してもらえない魔の冷凍庫ですね。
自分もいままでずっとネズミ、ラットを与えてきていたのですが、今回なんとなくウズラを与えて、思いのほかの大きさにコスパも良さそうなんで乗り換えも考えたくなるのですが、そこは一端の獣医、栄養学的観点からヘビの餌を比較して、本当に乗り換えても大丈夫なのか少し検討したくなりました。
頼るのは学術論文です。Evidence-based Medicine(根拠に基づく医療)ですね。で、簡単に見つかりました。2002年の総説論文です。他にも色々見つかりましたがとりあえずこいつで行きましょう。
Nutrient composition of whole vertebrate prey (excluding fish) fed in zoos - ES Dierenfeld, HL Alcorn, KL Jacobsen
ここではヘビの餌に焦点を当てていきますので、購入しやすい餌、そして自然界でよくヘビが喰っているであろう獲物も興味があるので含めるとして、
- マウス(ピンク、アダルト)
- ラット(ホッパー、アダルト)
- ウサギ(成体)
- ニワトリ(ヒヨコ、成体)
- ウズラ(成体)
- アカカエル
こいつらを比べてみましょう。
そもそもヘビの必須栄養量って?
比べる前に大前提を書いておきます。
ヘビの必須栄養量(Nutritional Requirements)についてです。
結論から言うと、ヘビにどの栄養素がどれくらい必要なのか、という問題は現状の科学では解明されていないと思われます。いくら探しても量的分析結果は出てきませんでした。
ちょこっと上記したんですが、ヘビ族は基本的に餌を丸呑みして、餌となる動物の全構成物質を餌として食べるわけです。つまり動物が生きていくために必要な栄養素を全て含んだ餌を丸々食べているということ。生きてるネズミを構成する要素はネズミの身体の機能を正常に動かすためのエネルギー、蛋白質、ビタミン、ミネラルであり、これを丸ごと飲み込んでしまえば生きるのに必要な栄養素も丸々全部喰っていることになる、という発想。
この仮説からヘビ族における栄養失調は起き難いとされてきています。
っつーことで、実際に蛇さんが生きていく上で必要な栄養量は現状不明です。ではどうするか。そういう時はもう大抵の動物は大体みんな似たような造りになってんだよ!という発想で、他の生物の必須栄養量を代用して考えてみるのです。いわば応用栄養学で挑戦してみましょう。
餌の種類別、各栄養内容量
タ % |
脂 % |
Ca % |
P % |
Mg % |
VitA IU/g |
VitE IU/g |
Cu mg/kg |
Fe mg/kg |
Zn mg/kg |
Mn mg/kg |
DM % |
kcal/g (DM) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
M<3g | 64.2 | 17.0 | 1.17 | NA | 0.11 | 30.9 | 0.05 | 19.2 | 181.3 | 82.5 | 0.2 | 19.1 | 4.87 |
M>10g | 55.8 | 23.6 | 2.98 | 1.72 | 0.16 | 578.3 | 0.10 | 6.7 | 137.9 | 67.5 | 7.7 | 32.7 | 5.25 |
R<50g | 56.1 | 27.5 | 2.07 | NA | 0.12 | NA | NA | 11.3 | 133.2 | 81.9 | 2.6 | 30.0 | 5.55 |
R>50g | 61.8 | 32.6 | 2.62 | 1.48 | 0.08 | 151.4 | 0.14 | 6.3 | 148.0 | 62.1 | 11.0 | 33.9 | 6.37 |
ウサギ | 65.2 | 15.8 | 5.93 | 3.43 | 0.18 | 6.2 | NA | 4.6 | 100.0 | 84.0 | 2.4 | 26.2 | 5.30 |
ヒヨコ | 64.9 | 22.4 | 1.69 | 1.22 | 0.05 | NA | NA | 5.2 | 119.5 | 97.4 | 3.9 | 25.6 | 5.80 |
鶏 | 42.3 | 37.8 | 2.22 | 1.40 | 0.50 | 35.6 | 0.05 | 3.6 | 122.2 | 116.1 | 10.1 | 32.5 | 5.90 |
ウズラ | 71.5 | 31.9 | 3.43 | NA | 0.06 | 70.3 | 0.07 | 2.6 | 74.9 | 53.0 | 6.4 | 34.6 | 6.79 |
カエル | 71.2 | 10.2 | 4.29 | 1.87 | 2.47 | 25.1 | 0.08 | 11.2 | 102.6 | 100.3 | 11.5 | 22.5 | 4.80 |
項目多すぎてグシャッ!ってなるう!
ということで画像バージョン↓

9種類の餌をそれぞれ栄養項目で比べて、一番内容量の多い餌を赤、次点をピンク、最低値を青、次点最低値を薄青で視覚的に分かりやすくしました。
パッと見では全体的にアダルトサイズのラットに赤項目が集中していて優秀そうに見えますが、それぞれの栄養価値を細かくかみ砕いて考察していきましょう。
各種栄養を考察する
蛋白質%
餌となる動物に含まれる乾物量(後述)のうち、蛋白質が占める割合。いわゆるお肉です。肉食獣であるヘビの基礎エネルギー源。
ちなみに必須アミノ酸については全く考慮されていませんが、ヘビ族におけるアミノ酸の欠如の症例がほとんど報告されていないところをみるに、多分どんな餌でも足りているものと推測されます。
脂肪分%
餌となる動物に含まれる乾物量(後述)のうち、脂肪分が占める割合。こちらもエネルギー源としては優秀ですが、多ければ多いほどそれに比例してミネラルや蛋白質の摂取量が少なくなる点には注意。
我々が餌として使用するネズミやトリは人によって高エネルギーの餌を与えられ育てたられた物なので、全体的に野生に住むネズミやトリに比べると脂肪分が多くなります。また、幼体よりも成体のほうが脂肪分が多いです。ちなみに、飼育環境にある肉食獣(つまりはネコとかその辺)の最低脂肪分摂取量が5~10%というところから考えても、かなり高脂質です。
オメガ3FAや必須脂肪酸については考慮されていませんが、やはり症例がないことから特定の餌による欠如はないものと推測されます。
カルシウム(Ca)、リン(P)
雑食性のトカゲ等を飼っている人がよく苦労するのがこのカルシウム摂取量ですが、餌を丸呑みするヘビ族は餌となる動物の骨から大量のカルシウムを摂取できるので基本的に栄養価として問題はありません。
ヘビに限らず、動物がカルシウムを体内に摂取するにはビタミンD3とリン(P)の量に気を配る必要があります。
まず消化器官に入ったカルシウムはイオン化し、同じようにイオン化したリンと結合してリン酸カルシウムという化合物になってしまいます。こいつはほぼ体内に吸収できません。
リンに結合しなかったカルシウムイオンは、ビタミンD3によって体内に吸収され、栄養素として蛇さんの糧となります。
よって、餌に含まれるカルシウムとリンの比率(Ca:P比)を確かめることが大事で、Ca:P比が1以下(つまりリンの量がカルシウムより多い)になってしまうと、取り込んだカルシウム全てがリンと結合してしまい吸収できなくなります。Ca:P比が1:1以上にならなければならないのです。この点に関しては上記の餌は全てがCa:P比1以上でクリアしています。
あとはビタミンD3さえあればいいのですが、基本的に肝臓に溜め込まれているビタミンD3は肝臓を食べれば摂取できるので餌を丸呑みしているヘビはビタミンD3不足になり難いと言えます。が、不安であれば紫外線を当てて自己生成させるか、餌にビタミンD3を添加して補いましょう。カルシウムの添加も一緒に行って大丈夫です。余分なカルシウムは体外に排出されますのでアホみたいな量のビタミンD3を与えてない限り問題ありません。
マグネシウム(Mg)
マグネシウムもまた骨の形成に必要なミネラルですが、カルシウムに比べてあまり注目されません。多くのサプリにはマグネシウムが含まれていたりしますが、ぶっちゃけ必要性は不明。0.03-0.1%摂ってればいいでしょ、みたいなノリですし、マグネシウム欠乏症の爬虫類という症例が見つかりませんのでどんな餌与えても大丈夫なんじゃないですかね。何故か不明ですがカエルがめっちゃマグネシウム抱えてます(多分細胞内のMg濃度が両生類なので高い)。
ビタミンA
人においては視覚伝達に必要であり、皮膚の新陳代謝や抗酸化作用としても大事なビタミンA。
動物性ビタミンAは肝臓器からの摂取が主となるので、丸呑み派の蛇さんは餌の肝臓を呑み込み多量のビタミンAを摂取します。
実際、肉食獣であるネコの場合は最低必要量がおよそ4IU/g程度で、逆に100IU/g以上は過剰摂取になってしまいます。上記の餌を見ると全てが最低値をクリアしているどころか、ネズミやラットに至っては過剰摂取量に達してしまう勢いです。が、ビタミンA過剰摂取によるヘビの症例が見つからないところをみるに、どうやら蛇族はこれに対応している模様。
ビタミンE
こちらも抗酸化物質で細胞を守る役割。特に過酸化脂質の増加を抑制する働きがあります。悪玉コレステロールとか聞くでしょ?あれ防ぎます。
ネコにおける必要摂取量はおよそ0.03IU/gなので、全ての餌が問題ないように見えますが、ウズラを与え続けた猛禽類がビタミンE不足になったという報告もあるので種族による必要量の違いが示唆されます。
ヘビにおけるビタミンE欠乏症からなる筋障害の症例も少数あり、太った動物を餌としてあげていたことの関係が疑われてます。太った餌、つまりは過酸化脂質の過剰摂取ですね。
銅(Cu)鉄(Fe)亜鉛(Zn)マンガン(Mn)
全てまとめて微量ミネラル。面倒なので哺乳類や鳥類の必要量で考えてみると、
- 銅(3~8mg/kg必要)→ ウズラや鶏で不足しがち。幼体ほど銅が多い
- 鉄(32~110mg/kg)→ 全体的に十分値
- 亜鉛(10~50mg/kg)→ 全体的に十分値
- マンガン(5mg/kg)→ ウサギ以外の成体は十分値
乾物量%(Dry Matter, DM%)
よく人間の70%は水分でできていると言います。乾物量%とはつまり、水分以外の割合であり、人間が70%水分だとすれば、残りの30%が乾物量で、蛋白質や脂肪やミネラルです。
簡単に言えば、DM%が高いほど、水以外の栄養素を多く含んでいる餌、と考えていいです。飼育下におけるヘビは水を飲めるので、DM%が多い方が餌としてお得感はあります。
乾物総エネルギー値(kcal/1gDM)
乾物重量1gにおけるエネルギー量。高ければ高いほどエネルギーが多い餌ということ。大事なのは、「乾物重量1gにおける」という部分で、例えこれが高い値でも、実際の餌が水分を多く含んでいた場合、水分込みの1g辺りのエネルギー量は大したことなくなります。
つまり、DM%が高くて乾物総エネルギー値が高いほど、エネルギー量の多い餌となります。ウズラとアダルトラットの圧勝です。一方で幼体であるピンクマウスやカエルは水分量も多く乾物エネルギー量は少なめです。これは脂肪分が少ないことが多く影響してますな。
結局どの餌がいいのよ

ピンクマウス
幼体故の水分量の多さ、そして脂肪の少なさからエネルギー量は少ないが栄養分は申し分なし。給餌回数でエネルギー量を補おう。カルシウム比が最低値の餌なので、カルシウム添加を強く推奨する。
アダルトマウス
ネズミ万能餌のウワサは伊達ではない模様。全体的にバランスよくビタミンやミネラルが含まれている。何故かは知らないがそのビタミンA値は圧倒的で、場合によっては過剰摂取も辞さない勢いだが、蛇族は多分ビタミンA多量摂取に耐性があると思われるので問題ないだろう。
ホッパーラット(若体)
アダルトマウスと比べて順当に蛋白質と脂肪分を増やした、サイズ上位個体。成体ではないのでマンガンは少なめ、ビタミンAも抑え気味と思われるが餌として問題無し。
アダルトラット
キング・オブ・餌。脂肪分の多さもビタミンEの多さで補完、エネルギー量も多くコストパフォーマンスも良好。ミネラルも一切不足無しの完璧な餌と思われる。
ウサギ
大型のヘビに与える餌として悪くないように思える。以外なことに脂肪分の割合が最低値の細マッチョな餌。全体的にミネラル多めだが、微量ミネラルであるマンガンは成体のくせして少なめ。不安なら時折別の餌を与えて補えばいいかもしれない。
ヒヨコ
欠落している項目が多いが、ヒヨコが喰えるサイズのヘビであればアダルトマウス辺りを喰えると思われるのでできれば避けたい餌。ヒヨコが悪いというより、ネズミが万能すぎるのが悪い。幼体故にカルシウムが少なく、その割にリンが多いのでカルシウムの添加を強く推奨。多分ビタミンEも少なめの餌。
ニワトリ
大型のヘビに与えられるであろう餌その2。以外なことに脂肪分の割合が圧倒的に高いのであまりヘルシーな餌とは言えない。ウサギと比べると互いの栄養不足を補い合っているので、ウサギメインで時折ニワトリを給餌、という形にするのが大型ヘビの給仕コスパとしては良いかもしれない。
ウズラ
蛋白質量、DM%、総エネルギー量と、単純なエネルギー視点からのコストパフォーマンスでは追随を許さない。ミネラル分は軒並み低めの値で、ネコや鳥の観点から見ると銅(Cu)は不足する。また、猛禽類でビタミンE欠乏症の報告あり。ラットと共に時折与える分には問題なさそうである。
カエル
正直ネタとして入れて見たものの餌としてはしっかりとしているようで、ミネラル等を全て含んでいる。が、やはりカエルの子はカエル、水分量が多く、脂肪の少なさからエネルギー量も低い、コスパの悪い餌。まず餌として得るところから面倒だし、わざわざ餌として与えることもない。
結論、
丸呑みしてくれれば割となんでもよさそう。