とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

闇を切り裂く速度超過ニキ(2024年キャンプ3日目)

雨と霧と冠水とカンガルーと闇と危険を感じるんだ。

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3日目朝。K君宅。天気、すごく微妙な感じの小雨。

「どうする?」

「うーーーん...Bunya Mountains National Parkは山だし天気厳しいよなぁ...朝から走るかなぁ...」

「じゃあ代わりにちょっと近場で滝がある所の散策とかはどうよ?」

「何それ魅力。雨で水量増してるだろうからきっと格好良いぞ行こう行こう」

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「あれ、雨なのに結構駐車場いっぱいだな...」

「日曜だし泳ぎに来てる連中だろうなぁ」

「えー寒いじゃん...」

「アイツらの感覚狂ってるからね...おっ、言ってる側から裸足の兄ちゃん歩いてきた」

QLDに帰ってきたなぁと感じる瞬間である。

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ここのトレッキングコースは高低差80mの約5kmコースと、カジュアルに歩きにくるにはとても良い塩梅で良きであった。

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が、案の定途中で結構本格的なスコールが襲来。全員ずぶ濡れになりつつもこれはこれで貴重な体験をしつつ帰投。

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サンシャインコーストを去る前に文明環境での昼飯。タイ料理屋でランチセットを頂く。ブッシュウォーク中に腕や足にまたしても付いていたヒルが店内の床を張っていたので気づかれないように処理。

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そして午後1時、まだまだ雨が強まる中、K君と足早に別れついに進路を内陸へ。まずはとにかく雨雲の先へ向かい乾燥した大地を手に入れることを第一目標とした。

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しばらくは順調に、そのうちに高低差のない開けた大地へとたどり着いた。ここいら一体も前日から大量の雨が降り注いだらしい。あたりには、冠水した道路が広がっていた。またしても冠水に苦しめられる旅なのか。。。

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しかし、こちらも10年物パルサーの底力を知っている。冠水深度20センチのマーカーを頼りに、窓から身を乗り出しながら、しっかりと徐行して、冠水を一つ一つクリアしていく。

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次から次へと現れるFloodwayのサイン。また冠水か?この次のはもっと深いのであろうか?主要幹線道路まではあと16キロ。もし引き返すとなれば、60キロ。燃料は120キロ分。行けるのか?まだいけるのか?不安しかない旅路は続いた。

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雨雲の先を目指し、ひたすら西へ。30カ所位の冠水を抜けると、ようやく大通りへたどり着いた。幹線道路の安心度は大きい。大きなストレスからの解放である。時刻は午後4時を過ぎている。もうすぐ日没だ。

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午後5時半ごろ、予定していたMilesの町の一角にある無料キャンプグラウンドに到着。しかし当初の予定とは裏腹に空にはまだまだ雨雲が広がり、現場も水浸し状態である。

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上にも下にも水が溢れているとわかれば、テントを張る気力は全く起きない。首脳会談(1人)の結果、今夜はテントを張らず、車中泊で乗り過ごすことに決定。

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そうとなれば日没前に停まる必要もないため、このまま次の街を目指すことにした。本来であれば日没後に車の運転はしない。死角からヘッドライトめがけてカンガルーが飛び出してくるからだ。だが、ここはまだまだ内陸とは言えない場所。大丈夫であろう。

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雨雲のせいで急速に暗くなってきたところで、事件が発生。先ほど慢心的な決断を下した例のヤツがまさしく目の前に飛び出してきたのである。

 

「うわっ!カンガルーいるんかい!」

 

急ブレーキを踏み込み間一髪でかわす。呑気にブッシュへと跳ねていくカンガルー、アドレナリンバリバリの運転手。

周りは街灯1つない暗闇と化してきた。小雨はパラつき霧は濃くなっていく。またいつどこからか奴らが飛び出してくるかもわからない。怖い。周りは事故の原因となり得るもので溢れかえっていた。

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どんどんと深くなる闇の中、1つの希望を見出した。前方に赤いテールランプが見えるのである。どうやら前方車両に追いついたらしい。テールランプの下に近づくと、それはバイクを牽引したSUVであった。

 

「バイク牽引ニキ!」

 

嬉しさのあまり車内で一人そう叫んでいた。このような視界不良の中、前方車両の存在がどれだけありがたいか、わかる人にはわかるであろう。速度こそ遅いが、私はバイク牽引ニキに一生ついていくことに決めた。

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30キロほど走ったであろうか。前方のバイク牽引ニキが急にハザードを焚き、車を路肩に停車させた。どうやら彼にも限界が来たらしい。

 

「バイク牽引ニキ...なんでいなくなっちまうんだよ...!俺1人でどうしろって言うんだ...!」

 

心の中でむせび泣き仲間の喪失を嘆いた。もう飛び出してきたカンガルーを代わりに轢いてくれる奴も、突然の冠水に先に突っ込んでくれる奴もいなくなった。

 

しかし、ここで新たな希望の光が目に飛び込んできたのだ。

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今までずっと私の後ろを着いてきていた後続車両が、徐行運転にしびれを切らし、後ろから一気に追い抜いたのである。

 

「速度超過ニキ!!」

 

闇を切り裂いていく速度超過ニキのハイビーム。まずい!このまま置いていかれるわけにはいかない。

 

「速度超過ニキ!頼みます置いていかないでください!」

 

アクセルを踏み込み、必死に食いついていく。それまでの徐行とは打って変わって速度を上げた私を、まるで赤子をあやすかのように速度超過ニキはジェットストリームで優しく包んだ。

 

一方で突如最後尾となったバイク牽引ニキ。バックミラー越しにもグングンと距離を離されていくのが見てとれる。牽引車でこの速度は厳しいのだ。

 

「バイク牽引ニキ...!はやく!はやく追いついてくれ...!こんなところで落伍するな!」

 

祈りも虚しくバイク牽引ニキのヘッドライドはみるみるうちに後方の闇に呑まれ、二度とその光を拝むことはなかった。そんなことはお構いなしに爆走する速度超過ニキ。こちらも涙を流している余裕はない。バイク牽引ニキは迫り来る闇を抑え込むために犠牲となったのだ。

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結局60キロほどニキのケツに食らいついて走った。私とニキは気づけば大きな街Romaへとたどり着いていた。

 

「速度超過ニキありがとう...おかげで無事に街までつけたよ...!」

 

街の交差点で私とは別方向に向かおうとするニキに対し、渾身の感謝ハザードをプレゼントした私は、町外れの公衆トイレの横にある無料駐車場エリアにて車中泊への体制と移行した。

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サンシャインコーストは今日も雨(2024年キャンプ2日目)

母さん、僕は今サンシャインコーストにいます。

サンシャインコーストは、今日も雨です。

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朝の7時。南を向くリビングには向かい側のハイライズに反射した朝日が勢いよく照射を開始し、展開してあった寝袋の顔部分にダイレクトアタックをかけてきた。

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死角からの朝日に目をやられていると今度は空から聴覚を狙った刺客も来訪。けたたましい声で捲し立てるゴシキセイガイインコ達である。野生個体だがよく人間から餌を貰っているのであろう、昨晩の残りのスープを朝飯がてら食べていた私の肩に我が物顔で乗ってきては飯の催促である。いやこれはお前ら用の蜜ではなくてただのジャガイモのスープなのだよ。

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ゴールドコーストのズレたあるあるを一通り楽しんだところで行動開始。まずは昨日コアラを観察したCoombabahへの再訪から。

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昨日あれだけ簡単にコアラが見つかったのだから今朝も大量であろうと思っていたのだが、どういうわけかこの日の朝は全く見つからず。時間帯によって行動が変わるような動物でもなかろうに...どうせ基本寝てるじゃないか。どうしてこうなった。

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粘って四方を探したがカンガルーしかいないので撤退。本日は北に150kmほど移動してサンシャインコーストを目指すが、その前にやっておかねばならないことがある。それすなわち、オーストラリアではこの近辺にしか存在しないレアなハンバーガーショップモスバーガーに行くことである。

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とてもおいしいエビカツバーガーを堪能したところで、いよいよサンシャインコーストへ。道中ブリスベンでの渋滞に捕まっていると、何やら空模様が怪しくなってきた。今朝の快晴が嘘かのように、本日午後の予報は雨である。

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小雨と本部とも言えない。中途半端な雨の中サンシャインコーストの友人宅に到着。一体ウォンバットを研究している誰なんだ...?本来であれば午後の時間を使って近場の熱帯雨林を散策する予定ではあったが、果たしてこの雨である。我々は雨雲レーダーに小さな穴があるのを見つけ、この木を逃さんとばかりに足早に森へと向かっていた。

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Mary Cairncross Scenic Reserveに到着するも、やはりそこは現実的に雨である。濃霧のかかる熱帯雨林は大変美しかったが、対象的に動物の影は薄く、何故か雨を全く気にしないパディメロンたちが数匹歩いているだけにとどまった。

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熱帯雨林マイナスイオン()と足元に吸い付いた数匹のヒルを充分に堪能したところで、帰宅を決意。K君の家へ帰る。インドカレーのテンションになったので具材を購入し、自宅飯の流れとなった。大変美味である。こういうのが気楽で良い。

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「明日の予定は?」

K君が問う。

「明日の天気次第だなぁ。晴れるなら予定通りBunya mountain np辺りに行くとして、雨が降ってたら雨雲を突っ切る形で朝から内陸方向に突撃かなぁ」

アドリブ旅の強みであり弊害でもある曖昧な答えを返す。

「どれくらいの確率?」

「えー現状は7:3で突っ走りコースじゃないかぁ?気象レーダーこんなだもの」

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天気ばかりはどうしようもない。期待と不安に胸とエアマットを膨らませつつこの日は平たい床にエアマット、電気と天井付きの豪華ゲストルームで就寝である。

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コアラは木に引っかかっていた (2024年キャンプ1日目)

ユーカリの揺籠に包まれて、彼らはひたすらに夢をみていた。

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2023年の後半は新しい家探しに追われ、引っ越しに追われ、新居での新生活の基盤作りに追われる日々が続いていた。明くる2024年は3月に日本に一時帰国をして日本食を楽しんだ。そんな生活を送っていたものだから私の中の何か、つまりはゴーストが囁くのである。

 

「そろそろテント生活をしよう。内陸に行こう。」

 

かくして1ヶ月前に4週間近く有給を取っていた私は何を恥じるでもなく堂々と翌4月の終わりにまるっと1週間の休みを半ば強引に取得して、全10日の休みを手にしたのである。

さてどこに行こうか。時期的には冬が始まる前で爬虫類も鳥類も動きが活発であろうから、やはり内陸を目指したい。しかしこの時期はNSW州ではスクールホリデーである。できるだけヒトのいない場所に行きたいのでここはQLD州まで行ってしまおうか。ともすればゴールドコーストにいる母親に挨拶もして、そのついでにサンシャインコーストにいる友人にも会っておくか。

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そんなアホなほど適当な計画を全部打ち込んでみると、周囲3500kmほどのバミューダトライアングルが地図上に完成した。よし、これだ。

そんなこんなで唐突な旅が始まったのが2024年4月19日である。何しろ唐突に休みを押し通したので今回はT君も誰も拉致できない一人旅になってしまった。それもそれで自由で良いであろう。

 

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初日はまだ真っ暗な朝4時からスタート。まずはシドニーから一気にQLD州のゴールドコーストまで車で突き走ります。沿岸部の1号線を使ったルートで、これといって個人的に楽しめる場所は道中にはないのでひたすら距離を稼ごう。

 

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市街部は朝になると渋滞を起こすが、日が出る頃にはシドニー周辺から離れることに成功。これで一気に効率がよくなる。

 

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朝マックと給油、それに加えて合計3回の小休止を挟みながらひたすらに1号線を突っ走ります。4:15スタートで、850kmを走り終える頃には時間が13:30過ぎ。市内も含めておおよそ時速100kmを維持できました。よしよし。

 

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なぜわざわざ早朝4時からスタートしたか。それは余裕を持ってゴールドコーストに到着し午後にフィールドへ繰り出すための時間を確保するためである。というわけで初日の今日はCoombabah Lake Conservation Parkへと突撃。

 

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 狙うはオーストラリアの人気者代表、野生のコアラ。ここには150頭ほどが高密度で生息するので歩いて散策しているだけで見つかるアツい場所らしい。

 

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と、エリアに入って歩き始めて5分のところで樹上高くに早速第一コアラを発見。本当にあっさり出現するなぁ。

 

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そこから10分ほど歩くと更に1匹。こちらは表情豊かに爆睡中。コアラは全体的な個体数は減っているが残っているところには高密度で残っているイメージなので、まさしくここは典型といった感じである。主に人間の開発によって生息域が分断縮小されていっているので、残された生息地で密度だけが濃縮されているのであろう。遺伝子プール的にもよろしくない状況だ。

 

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番奥にいた3匹目。こいつは地上からそこまで離れていない細い低木に引っかかるような形で爆睡していた。見た目は完全に酔っ払って行き倒れたオッサンである。腹の中で解毒に集中しているという面では確かに酩酊状態のオッサンとさほど生態は変わらないのかもしれない。

 

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ブッチャーバードはその様子をせせら笑い、

 

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乳離れしたくない子カンガルーは母親の乳首を求め続けていた。ここは平和で良いところである。

 

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およそ内陸キャンプ旅とは似つかわしくない夜景に囲まれつつ、初日は母の家のリビングにコットと寝袋を広げて煌々と照らす電球の下でブログを書きつつ熱いシャワーを浴びた。