とある獣医の豪州生活Ⅱ

豪州に暮らす獣医師のちょっと非日常を超不定期に綴るブログ

とある獣医の豪州生活Ⅱ

ケルベロスに去勢手術を施す考察

ある暇な土曜日、ふと「獣医とは何か」について哲学的に考えてみた。

 

獣医とは何か。とても難しい問いである。傷病の動物を治す人、公共衛生を守る人、動物と人との間に入って架け橋となる人、研究者、科学者・・・どれも正しい。どれも正しいのではあるが、どうであろうか、何とも曖昧というか、範囲が広すぎるのである。

 

獣医の範囲とは何か。問題を考えているうちにまたも難しい問題にぶつかってしまった。獣医という職業の内容は多岐に渡るが、その対象となる動物の範囲もまた非常に多岐に渡る。一般の感覚だとイヌやネコ等の愛玩動物が主体となるであろうが、その実は畜産動物は勿論の事、各種エキゾチックペット、様々な野生動物、海獣、魚類、挙句の果てには畜産業の一環として蜂についてまで大学で学ぶほどである。

 

駄目である。

深く考えていては貴重な週末も無駄に脳細胞を焼き殺して終わってしまう。

 

 

そう、単純化すれば良いのだ。

 

 

つまり獣医とは、この世の全ての生物のうち、ホモ・サピエンスを除いた全てを診る存在である。これだ。

「ヒト以外の全ての動物を診る」は分かりやすい。そう、臨床獣医師に関しては単純化していけばきっとこの肩書きにたどり着くであろう。例えそれがイヌであってもウシであっても蜂であっても蜘蛛であっても、獣医師免許と知識を駆使して患畜を助ける。間違ってはいないはずである。

 

 

 

 

 

ここで暇な土曜日に迷走もとい瞑想していた、とある馬鹿な獣医に更なる疑問が頭をよぎってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ではもしもそれがヒト以外の伝説上の生物、

例えば ケルベロス だったらどう対処するんだろうか。

 

 

 

 

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ギリシア神話に登場する3つの頭を持つ犬の怪物。ハーデースが支配する冥界の番犬。

 

 

 そうである。

 

 

真の獣医師たるもの、ケルベロスの去勢手術くらい出来て当たり前である。

 

 

 

 

 

しかし僕はまだまだ新米獣医師。イヌの去勢避妊手術なら数百とこなしてきているが、残念ながらまだケルベロスの手術経験は無いのだ。

 

 

これではいけない。

 

 

いつか来るであろう患畜ケルベロスにどう対処すべきか、

事前に自習しておくべきである。

 

 

獣医は普段から勉強を怠ってはいけないのだ。

 

 

ということで、まずは家にある医学書や参考書、教科書を開いてケルベロスについて学んでみることにした。

 

 

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手持ちの教科書を片っ端から広げてみたが…

 

 

 

ケルベロスの項目が見当たらない。

 

 

多分ケルベロスはエキゾの中でも断然特殊なのであろう。一般レベルの教科書や参考書には使えそうな情報の記載は無かった。大学の講義でも習った憶えは無いのだが、これは僕が授業中に居眠りをしていたからかもしれない。

 

 

 

 

このままではある日突然ケルベロスが来院した際に、ちゃんとした医療を提供できないではないか。それでは臨床獣医師失格である。知らない事は自分で調べてみて、それでも分からない場合はどうするか。

 

 

 

 

 

そうだ、Twitter、訊こう。

 

 

 

 

 

 

持つべきものは友であり、同業者から共有される知識である。ツイッターに存在する獣医師クラスタ勢にケルベロスの手術の経験者がいるかもしれない。経験者がいなかったとしても、三人寄れば文殊の知恵と言うではないか。ここは博識で秀逸でバカ(褒め言葉)である彼らに意見を求めてみようと思う。

 

 

 

 

 結果、

 

色んな獣医から様々なアドバイスを得た

何でそんなにノリが良いんだこいつら

 

 

よってここに、ツイッター獣医師合同の知識を総括したケルベロス去勢手術法についてまとめようと思う。未来の獣医師も、まさにケルベロスが予約もなく駆け込んできた現役獣医師も是非参考にしていただきたい。

 

 

患畜ケルベロスの基礎知識を付ける

まずは患畜を知らなければ話にならないのである。近い将来に診るであろうケルベロスとは一体どういう生物なのか。

 

 

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3つの頭を持つ犬。文献によっては竜の尾と蛇のたてがみを持つ。

 

ケルベロスギリシア神話に出てくる犬の怪物であり、ハーデースが支配する冥府の入り口を守護する番犬と言われる。冥界から逃げ出そうとする亡者を貪り食うため、飼い主であるハーデース以外のヒトに対しては基本的に凶暴だと推測される。

普段は3つの頭が1つずつ交互で寝ているらしいが、美しい音楽を聴くと全ての頭が寝てしまう特徴を持つ。甘味が好物で、これを食している間は凶暴性が無くなるらしい。

ヘーラクレースがケルベロスを地上に連れ出した際、太陽光に驚いて暴れた際に飛び散った唾液から猛毒植物のトリカブトが発生している。

 

よって特徴を挙げるのであれば、

  • 頭が3つある犬。ただし尾は竜、たてがみは蛇の場合がある
  • 基本的な性格は獰猛で、ヒト(亡者)を襲って貪り食う
  • 美しい音楽を聴くと眠ってしまう
  • 甘いものが好物
  • 唾液にトリカブト由来の毒素を持っている可能性がある

 

この基礎知識を活用して、手術プランを立てる必要がある。

 

 

術前検査は可能か

 

年齢や既往歴は紀元前15世紀辺りから伝承されている生物なので概念が吹っ飛んでおり割愛せざるを得ないかもしれないが、麻酔をかけるとなると術前に血液検査の一つくらいはやっておきたいのが臨床獣医師の正直な気持ちである。

 

 かなり獰猛だと思われるケルベロスの術前検査はどこまで可能であろうか。

 

結論から申すと、薬物鎮静の前に血液検査を行うことは現実的に不可能そうである。ケルベロスはまず間違いなく獣医や看護師を躊躇なく噛み殺しにくるであろう。

 

甘味で気を引いたり、音楽で眠らせたとしてもこれは「目の前を素通りする」程度の行為しか過去に許されておらず、とても採血のために注射針を静脈に刺すなんて行為はできない筈である。

 

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冥府の神ハーデース(飼い主)とケルベロス

 

では、ケルベロスは唯一言うことを聞くであろう、飼い主のハーデース神に血液サンプルを採って頂くという案はどうであろうか。

 

……これもどうやらダメそうである。

 

そもそもハーデースは医学の神であるアスクレーピオスと超こじれた過去がある。アスクレーピオスがメデューサの蘇生作用のある血を使って死者を蘇らせた結果、ハーデースの領域から大量の亡者を掻っ攫っていった事件がある。ハーデースにしてみれば医学なんてクソ喰らえであろう。そんな彼に「医療目的でケルベロスの採血を…」なんて言ったらこちらが槍で突かれて冥府にご招待されそうである。

 

 

ケルベロスの体重を推測する

 

 当初、ケルベロスの体重は上のハーデースと共にある石像から、頭部で増えた分を含めても体重30~40kgの大型犬程度であると推測していたが、色々と画像や石像を探していくと一概にそうとも言えなさそうである

 

 

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ヘーラクレースに抑えつけられるケルベロス。ホーフブルク宮殿。

 

ヘーラクレースの身長が分からないのでケルベロスの体高も不明ではあるが、この筋肉質の身体に非常に大きな頭部を3つ有しているとなると、体重は60kg近くなってもおかしくはなさそうである。

 

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ヘーラクレースに襲い掛かろうとするケルベロスと思われる。デカい。

 

この絵に至っては立ち上がった際にヘーラクレースよりも体長が大きくなっている。

 

 

ケルベロスはもしかすると

体重100kgを超えてくる巨大種なのかもしれない

 

この体重で、更に獰猛でしつけがなってない。そうなるともうケルベロスの扱いは愛玩動物のソレではなく、猛獣と同じように対処することがケルベロスにとっても獣医療関係者にとっても一番安全で負担が少ないように思われる。

 

 

ケルベロスの鎮静を思考する

さていざ手術となったら麻酔の投薬が必要となるわけだが、考えた限りではケルベロスには簡単に近づいてホイホイと注射を打ったりガス麻酔をかけるわけにもいかなそうである。そこで、なるべく獣医師側の安全を確保した状態での術前鎮静処置の方法を各種検討してみよう。

 

①鎮静剤を経口投与する作戦

 

ケルベロスの甘味が好物という特性を活かし、口から鎮静剤を投与するという案。

アセプロ辺りを混ぜた50%ブドウ糖液を先んじて舐めさせて鎮静効果を狙うという作戦であるが、果たして現実的であろうか。この際、歴史に学んで「ハチミツと芥子の粉を練って焼いた菓子」を使う手も考えられるが、固形物に関してはこの後に麻酔が控えており誤嚥の危険性が増すため避けたいところである。

一見すると有効そうであるが、現実では安定性が無いかもしれない

ケルベロスは基本的には冥界前にずっと繋がれている番犬であり、社交性に難がありそうなことは容易に想像できる。普段と違う環境、つまり「動物病院」において好物とは言えど薬入りの甘味を簡単に食してくれる保証はない。動物病院で偏食拒食をするイヌに我々は普段から悩まされている筈である。

 

また、もしかすると体重が100kg近くなる可能性があり、その際に経口投与の鎮静剤の量がどうしても増えてしまうのも難点の一つである。

 

では来院前に飼い主のハーデースに経口投与を頼むという考え方はどうであろうか。やはり駄目そうである。ハーデースの医学に対するコンプライアンスが信用できない

 

 

②捕獲・保定してから注射する作戦

 

どうにか保定するか前方の気を引いているうちに、背後から近付いて筋肉注射で鎮静・麻酔剤を投与する作戦である。ベテラン獣医ならワンパンとのことだが、残念なことに新米獣医の僕には多分無理である。

 

とにかく3つある頭のハードルが大きい。頭が一つだけであれば普段通りにマズルを装着したりエリザベスカラーをつけてある程度の無力化が可能であるが、これが3つ並んでいるとなると、一つの頭を無力化している間に残りの二つの頭に両腕を持っていかれる。ペースで言えば全ての頭を無力化するのに腕を3~4本ヤラれる計算になる。コストが大き過ぎる。

 

捕獲棒を使って頭を無力化することが一番現実的な方法ではあるが、これも頭3つを制御することが大変な作業であり、同時に難しい。患畜にかかる負担も大きいものとなるだろう。 

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ケルベロス用捕獲棒。特注であるが現場からは使い難いと評判は良くない。

 

③遠距離から吹き矢等で麻酔投与を行う作戦

 

 

 動物園における大動物や野生動物よろしく、ポールや吹き矢、もしくは麻酔銃を使用して薬剤投与を行う方法。ケルベロスが巨大種で体重100kgを超える可能性がある限り、多分これが一番安全で現実的な方法だと思われる。

 

しかし射出による薬剤投与となるとこれはもう鎮静というよりも麻酔の導入に等しいため、いよいよ術前検査や健診をほぼ行えないままの導入となってしまう。ケルベロスに関してこれはある程度仕方がないと思われるが、代行案があれば是非教えていただきたい。

 

麻酔導入薬、鎮痛、麻薬耐性を考える

遠距離麻酔薬投与を安定行動と仮定したところで、次は麻酔導入薬と鎮痛剤の選択である。覚醒時には留置すら入れられないであろう為、静脈投与系の麻酔は論外となる。

ここで考慮されるべき麻酔薬は筋肉注射による投与が可能であり、またデータの少ない動物麻酔となるので、いざという時に投与された薬剤の効果を打ち消すための拮抗薬が存在するものが好ましい。

 

また、麻酔の他に麻酔の管理を安定化させるための鎮痛剤も必要であるが、ケルベロスの場合、麻酔・鎮痛薬をチョイスする際にもう一つ問題がある。

 

 

そう、ケルベロスの唾液には有毒アルカロイドが含まれている可能性だ。

これの示唆するところはつまり、ケルベロスは常にアルカロイドに晒されており、

 

その身体はアルカロイド耐性が物凄いのではないか

 

ということである。アルカロイド耐性が強いということは、動物や人間の鎮痛薬としてよく使われるオピオイド系統(モルヒネ等)の薬が全く機能しないかもしれないのだ。

 

これに関しては意見が分かれた。

 

 

 

トリカブト由来のアコチニンとオピオイド受容体は別物だから大丈夫じゃないか理論もあれば、

 

 

 

いやいや、アルカロイド全般に耐性があるかもしれないから自然由来オピオイドは選択しないほうがいい、という意見。あくまでも可能性の話ではあるが、疑念がある以上は研究と検証が進むまではオピオイド系は避けた方が無難かもしれない

 

 

 

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M99。象やキリン相手に麻酔銃で使われる。威力はモルヒネの3000倍の麻酔薬

よって、例えば象やキリンに対して使われる麻酔薬であるM99エトルフィンはケルベロスに対しては適切な鎮静・鎮痛薬とは言えない。一見すると鎮痛効果も得られ、ナロキソンという拮抗薬も存在するので使い勝手が良さそうではあるが、エトルフィンは自然由来のオピオイドである以上、ケルベロスに対してその効果は不鮮明で予測不能である

 

 

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Zoletil - ゾラゼパム+チレタミンの1:1混合薬。麻薬指定されておらず便利。

 やはりケルベロスの導入に関しては

の筋肉注射2択であると思われる。このうちケタミンは麻薬指定されてから中々扱いが面倒である点、チレタミンは日本において未だに導入されていないというデメリットが存在するが、両者とも麻酔と同時に鎮痛効果も期待できるのでオピオイドの効かないケルベロスの導入麻酔として最も適切と思われる。

 

 

頭が3つ:麻酔の術中維持の最新医療

麻酔の導入が完了し意識を奪ったら、直ちに気道の確保とガス麻酔による維持を行うのが手術の主流ではあるが、ここで患畜ケルベロスにおいてまたも問題が生じるのである。

 

気道の確保とガス麻酔を、

3つの気道でどう行うのか

 

で、ある。

 

 

 

どうやら少し前まではガス麻酔による維持ではなく、注射麻酔による維持が推奨されていたようである。確かに頭が一つであれば普段通りに気管挿管した後、唯一の気管の状況をモニタリングしてガス麻酔の調節をすれば良いのだが、ケルベロスの場合は頭が3つあるため従来では3つ分全ての気管挿管を行う必要があった。これでは気管それぞれの状況が異なり、麻酔の調整や監視が難しいため、麻酔事態を注射麻酔にしてなんとか制御可能な維持を保っていたようである。

 

が、その必要性を無くした最新医療、C-ETT(Cerberus-ET tube、ケルベロス用気管内チューブ)を使用したガス麻酔による術中維持が推奨され始めた。

 

 

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©@Vet_Yass氏。多分特許は申請済みだと思われる。

 

 ケルベロス用ETTに付いている左右気管閉鎖用バルーンによって左気管と右気管を塞ぎ、中央気管のみでガス麻酔の管理をするという新しい方法である。チューブの位置がずれてしまうと左右気管の閉鎖が無くなってしまうのでSpO2とカプノグラフィに注視しないといけないが、安定させれば従来のイヌと同様の麻酔管理ができる。

 

素晴らしい発明である。

 

ケルベロス医学の未来は明るい。

 

 

 

手術中のケアと、術後ケア

 

鎮痛処置

今回は去勢手術前提であるため、鎮痛処置は他の大きな痛みを伴う手術よりかは楽であるが、それでも局部麻酔と術後のNSAIDsの使用によるマルチモーダル鎮痛は現代医学において必須事項である。

尚、先に書いたとおりオピオイド系統の鎮痛剤の効能はケルベロスにおいて定かではないため、より疼痛を伴う手術の際には注意が必要である。ただし人工精製のオピオイドに関しては効能が期待できるかもしれない他、現状オピオイドに対する大きな副作用は見られていないようなので、必要に迫られた際には使用を試してみることをお勧めする。

 

去勢手術

基本的に犬型であるケルベロスは体外に陰嚢を持っていると思われるが、尾が竜のそれである点から、もしかすると総排泄腔をもち体内に睾丸を持っている可能性も完全に否定はできない。状況に応じ、普段通りの去勢術か、停留精巣の除去術を両方を行えるように準備をしておくことが望ましいだろう。

 

術後の抜糸はできないものと仮定し、閉創では皮下埋没縫合を採用する。尚PDS等にアレルギーが存在するかは現状定かではない。

 

術後ケア

 

 

覚醒前に留置除去や、皮下輸液等すべきことは全て終わらせておく。学術的目的で各種レントゲンやCT、採血等のサンプル確保も望ましいであろう。マイクロチップの埋め込みに関しては「どうせ外見で個体識別が可能である」等の理由で現状は法的な必要性は無い。

 

Eカラーの必要性は意見が分かれるが、頭3つ分のカラーが生むデメリットを考慮しても、十分な鎮痛だけでカラー無し維持をする派が多いようである。

 

術後も数日はNSAIDsの経口投与を続ける。メロキシカムの経口液に砂糖を混ぜたものが望ましいか。

 

 

 

最後に:ケルベロス伝説に隠れた感染症の可能性

 

ここまでケルベロスの手術プランについて様々な獣医の意見を参考にしつつまとめてきたが、ここまできて大変な危険性に気付いてしまったので公共衛生の観点からこの場を借りて注意勧告をさせていただく。

 

ケルベロスの習性を調べている際、このような特徴があることが分かった。以下、一節を抜粋させて頂く。

 

ケルベロスオルトロスの兄貴分であり、3つの頭を持つ犬の化け物。ヘーラクレースは冥界に入ってハーデースから「傷つけたり殺したりしない」という条件で許可をもらい、ケルベロスを生け捕りにした。その際、ペルセポネーを略奪しようとして「忘却の椅子」に捕らわれていたテーセウスとペイリトオスを助け出した。また、地上に引きずり出されたケルベロスは太陽の光を浴びた時、狂乱して涎を垂らした。その涎から毒草のトリカブトが生まれたという。   ―――我らが信頼するソース、ウィキぺディアより

 

お分かりいただけただろうか。

 

 

 

要点をまとめるとこうである。

  • ケルベロスは亡者を見境なく襲う獰猛性を持つ
  • 強い光に狂乱する
  • 特筆する程に涎を垂らす
  • その涎には致死毒性があると示唆される

 

 

 

 

 

 

 

これ…

 

 

 

 

 

 

 

ケルベロス狂犬病発症してね?

 

 

 

 

ということで、ケルベロスを診察する際には絶対に噛まれてはいけないし、涎等の分泌物に細心の注意を払い、必要なら10日間の経過観察が必要となるかもしれない。狂犬病症状が確実に疑われる場合は致死処分を検討しなければいけない。その後、中枢神経組織のウイルス抗原検索が必要になる。

 

ケルベロス来院の際には気を付けたいところである。そしてケルベロスのオーナー達には狂犬病予防接種の徹底を確認していただきたい。

 

 

 

最後に、僕が衝動で思いついてしまったネタに楽しく付き合って下さった各先生方とフォロワーさんに感謝の気持ちを。

安楽死の決断方法 ‐ 安楽死のすゝめ

数ヵ月前、自身が渡豪して以来、少年時代、大学時代、社会人初期と非常に濃い人生を共に過ごし続けてくれた愛犬を安楽死しました。大型犬で15.5歳での決断でした。

 

そこで重い腰をあげつつ、現役臨床獣医師として、欧米社会における安楽死の捉え方を日々体験してる身として、「保健所のお仕事」を日々手伝う身として、そして何よりも自身の愛犬の安楽死をプランを練って実行した身として、

 

ここに、ペットの安楽死を少しでも考える必要が出てきた方に向けて、安楽死の決断方法について書いていこうと思います。

 

日本ではまだまだ欧米に比べて一般的とは言い難い安楽死ですが、

安楽死は良いものです。

そういう視点があるということだけでも分かって頂きつつ、安楽死の決断をしようとしている方、迷っている方の罪の意識を少しでも無くしつつ、苦しむ動物が減ることを願っております。

 

基礎知識:安楽死って何をするの?

一言で表すなら安楽死とは「苦痛を与えずに死に至らせる」処置です。似たような状況として行政で行われる殺処分がありますが、愛玩動物における安楽死とシェルターや疫病制御プランにおいて行われる殺処分は同じように扱わないでください。後述します。

 

一般的にペットの安楽死は薬剤の致死量を静脈注射することによって行います。色々な薬剤がありますが、一般として一番理解しやすい説明としては「麻酔の過剰投与」だと認識して貰えれば良いです。麻酔の投与なので、苦痛は伴いません。注射を打たれた動物は直ちに昏睡状態(眠る)に陥り、脳が痛覚や苦痛を感知しなくなった状態のまま心肺が停止します。

留置(カテーテル、血管に薬剤を入れる小さな管)を入れた状態でスタンバイができて、そこから全ての工程が数十秒~数分で終わります。

 

安楽死と殺処分の違い

殺処分現場においても動物は安楽死処置を行われます。すなわち、苦痛の伴わない方法で死に至らせるという点では同じ処置ですので、広義には殺処分と安楽死は同じですが、その行動原理は全く別だと個人的には考えます。

 

殺処分が必要になる状況は基本的に人間の都合が優先される場面です。疫病が出てしまいこれを抑え込む為に助かるかもしれない命を含めて処分しなくてはいけない場合や、増えすぎてしまった動物を減らさざるを得ない場面における処置を自分は殺処分と呼びます。

一方で安楽死ですが、これは動物の尊厳やQoL(後述)が優先される場面です。不可逆的な苦痛を抱える動物に対する、現実的に唯一効果的な救済がそれ以上の苦痛を長引かせない死を与えることである場合が安楽死だと自分は考えます。病気による慢性的な苦痛を抱える場合、経済的に効果的で現実的で肯定的な処置が叶わない場合などです。

 

当記事においては愛玩動物を相手にした安楽死について書きますので、安楽死に上記のような「殺処分」のイメージがあり罪の意識で躊躇している方にはちゃんとこの2つの線引きをまずしていただきたい。貴方が考える処置は、貴方のためですか?それとも動物のためですか?この問いは安楽死を選択する面で非常に重要になってくるので何度も自問自答してください。

 

安楽死と金銭問題

人間の都合が優先されるのは殺処分である、という論法を展開しましたが個人的に例外があり、それは金銭面で深刻な問題を抱えている場合です。ここは正直とても難しい。

例えば大きな怪我や病気をして早急・長期的な治療が必要だが治療費がどうしても賄えない場合。こういう状況において自分は安楽死という「安価な代案」の選択を支持します。状況にもよりますが放置することで深刻なQoLの低下が懸念される場合、早急に現状可能な処置(安楽死)を施してあげることこそが動物のためになると思うからです。

これを保留にして、必要な処置を施さずに時間を引き延ばしQoLを下げたまま苦痛を伸ばす行為は、それこそ人間のエゴであり都合勝手な選択肢だと捉えます

 

自分としましては畜産現場の感覚もありますので命と金は切っても切れない仲だと思っています。ここに偽善は必要ありません、認めちゃいます。保護グループの仔猫が重病で治療費に10万円掛かる状況であれば、その10万で1匹を助けるか、その1匹を切り捨てて代わりに10匹分の避妊去勢を行うか、天秤にかけられるタイプです。

こればかりは慣れと理解なので、命と金の選択を強いられる当事者となる飼主さんには酷なことかもしれません。ただ一つ言えるのは、思考停止による結論の引き延ばしだけは苦痛以外の何も生み出さないということ。それだけは理解してください。

 

安楽死と獣医

日本では獣医師によっては安楽死の相談をすると嫌な顔をされることがあるという話も聞きます。獣医は日頃から理不尽な、例えば「飼えなくなったから安楽死してくれ」といった、一部の心無い飼育者から殺処分の依頼を受けることがあるので安楽死の話になると防衛的になる人がいます。その際はしっかりと話し合う以外にありません。もしかしたらその獣医さんはもっと苦痛を肯定できるレベルまで和らげる処置を知っているのかもしれませんし、単純に「殺処分」をしたくないだけかもしれない。

もしも後者の、ただ「殺処分」をしたくない獣医であった場合は、いかにその決断が動物に必要であるかを諭してください。上記した通り、我々は普段から心無い人と関わってきていますので状況によってはどうしても疑心暗鬼になることもあるんです。信念を貫いていただければ理解できますので、語ってあげてください。

それが動物のためを思う安楽死なら、自分は全力で貴方の決断を支持します。そこから先にまだ残るであろう罪の意識を肩代わりするのも我々獣医師の仕事の一環です。

 

基礎知識:QoL(クオリティ・オブ・ライフ)とは

安楽死を考える上で一番重要な概念がQuality of Life (QoLです。概念の内容は複雑で文章に表し難いのでウィキペディア等にお任せしたいのですが、要はその動物の人生の質(ヒトではなくても人生と表記させてもらいます)や生活の質、総合的な幸福度・満足度を指します。「幸福」という概念は非常に複雑で様々な事柄を考慮しなくてはなりません。

  • 心身の健康状態
  • 自立状態
  • 友人や家族関係
  • 遊びやレジャー
  • 仕事に対するやりがい
  • 快適で自由な住環境

等、項目は多岐多彩です。そしてこれは個人によって大きく変わるものです。

例えば酷い慢性的関節炎があり全力で走れない場合。これがテレビ鑑賞の好きな室内小型犬であれば、抗炎症剤を使って「カーペットの上でのんびりテレビを観れる程度」に症状を軽減してあげればQoLは維持されるかもしれません。しかしこれが牧羊犬で、毎日10kmを走って家畜を追うのが生きがいだったイヌであればQoLは相当低下している状態です。

 

QoLのうち、心身の健康状態(怪我や病気、精神疾患)や自立状態(食事や排泄、自力で動くことができるか)や住環境のアドバイスに関してはある程度まで獣医師ができますが、最終的にそのペットのQoLを一番正しく判断すべきなのは飼主本人だと思っています。

獣医師としての仕事は、飼い主さんのQoL判断のアシストをすべく、疾患にどれ程の苦痛が伴い、治療や対処療法でどこまで改善し、予後がどうなりそうか、客観的に伝えることが第一だと思います。しかし基本的に獣医師はその動物の普段の満足感や幸福感がどこから来るか完全に掌握できません。それが分かるのは24時間一緒に暮らしている家族(飼主)です。最終的にどこまでのQoLの低下を許容できるかの判断は飼主に任せなければなりません。

 

年齢とQoLの大まかな変動

しかしQoLという概念を曖昧にして飼主に判断を丸投げしてしまってはこのブログの意味があまり無いと感じます。こういう判断を下さなければいけない状況下に置かれると、人はまともな判断能力が失われるほど精神的に動揺していることもあるので、もっと理論的で視覚的な、おおよそのQoLの上下を時間系列と共にグラフ化してみましょう。これは臨床獣医として様々な動物の最期に立ち会ってきた際の経験則に基づいているだけで、なんの科学的根拠もありませんので参考程度にしてください。

 

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誕生から最期までのおおまかなQoLの変化(経験則)

左が若く、右に行くにつれて年老いていきます。QoLは上にいくほど幸福度が高く、下に下がるほど問題視すべき事です。以下、それぞれの年齢におけるQoL値の変化について個人的な見解を番号順に説明します。

  1. 誕生から初期の仔犬・仔猫時代。生まれた当初は幸も不幸も基本的には理解しておらず、純粋な生存本能と原始的な苦痛の回避しかありません。成長していく過程で楽しい事や遊び、仕事、家族を認識していきQoLが上がっていきます
  2. 基本的な少年時代。全盛期です。健康的な身体と有り余る体力で人生を楽しむ期間。
  3. 中年・高年になり「歳を取った」と感じる何かが起きます。自分は医学的に「歳」とひとくくりにするのが嫌いです。内臓障害だったり運動能力の低下だったり怪我だったり、身体のどこかに問題が生じてこれが表面化する時期です。早期発見と対応が大事になります。
  4. 対処期間。上記で身体のどこかの機能が低下した際、手術や投薬によりそれの機能を補助したり苦痛を和らげます。ここが寿命を延ばす期間と捉えてます。実際には直線ではなくもっと波打っていて、調子良い日と悪い日があります。
  5. 悪化期間。それまで投薬等で対処していたことの悪化や、副作用・合併症等による別問題で一気にQoLが下がります。高齢の場合これは驚くほどのペースで、いきなり、一気に悪くなるケースをよくみます。安楽死はこのタイミングで決断すべきです。
  6. 一時の回復。これはよく見かけるんですが病気が一気に悪化していく過程で一瞬だけ回復傾向を見せることがよくあります。ただこれは医療的に捨て身の対処療法をしているがためであることが多く(例:副作用とか気にしないでとにかく強い鎮痛剤を使いまくる)、もしくはそれまでの急激な悪化が少し緩くなったがために回復に錯覚してしまうだけで、すぐに今まで以上の速度で悪化(下手すると死)が始まります。
  7. 悪化・QoLの甚大な低下。補助なしでは生命維持がままならない(食事が摂れない、水を飲めない、嘔吐が止まらない等)状態になったり、和らげることができないレベルの大きな痛みを伴ったり、自立状態(排泄、移動等)が保てなくなります。自然死に向かう過程でこの期間がどれ程続くかは分かりません

 

 とにかく大事なのが、早期からQoLの維持に力を注ぎ、それでも力及ばずQoLが一定値(許容範囲)を下回ったら、そこで決断を下す勇気です。

 

 

動物のQoLはどう評価する?

QoLの概念や大まかな流れを理解したところで、最終的にそれを評価し判断しないといけないのは飼主さんで、やはりこれが難しいとは思います。何しろ相手は内情を喋ってくれませんし、全力で苦痛を隠してくる存在です。

よって、自分は以下の2点に注視して対象動物のQoLを判断することを勧めます。

 

自分を同じ立場に置いてみる

例えばグズグズに膿んだ皮膚腫瘍があるネコ。一見すると痛みを表情に出しませんが、もし自分が同じ状況だったらどうでしょう。膝の擦り傷、痛くて痒くて気になりますよね。ニキビの中に膿が溜まってるとき、痛いですよね。

 

例えば毎日吐いてしまうイヌ。自分が二日酔いになったときどんな気分ですか。トイレにうずくまり吐気に襲われるあの感覚が今後ずっと続くと想像したら。

 

例えば関節痛でベッドから立つのもままならなず大好きだった散歩も苦痛なイヌ。自分がベッドから起き上がることすらできない身になったらどうだろう。自分の一番の趣味が痛みで全くできなくなった世界を想像したらどうだろう。

 

まずは苦痛の度合いを想像しやすくするように自分を同じ立場に置いてみましょう動物は痛みを隠します。それは本能です。というか人間があり得ないくらいに弱みを見せる生物なんです。なので表面だけでは苦痛は写りません。しっかりと内情を想像してあげてください。

動物は3歳児だと思え

例えばグズグズに膿んだ皮膚腫瘍があるネコ。「痛い」「舐めても治らない」程度しか理解していないと考えましょう。皮膚腫瘍という癌でどこに転移して余命がどれくらいか、なんて難しいことは彼らは理解しません。

 

例えば毎日吐いてしまうイヌ。「気持ち悪い」「楽しかったごはんも食べたくない」程度の理解です。腎臓病だから好きだったチーズは食べてはいけないし水をたくさん飲んで脱水状態になってはいけないし慢性的で不可逆的な症状なんだ、なんて理解してくれません。

 

例えば関節痛のイヌ。「痛い」「お外行きたいけど行きたくない」「お外でトイレしなくちゃいけないのにごめんなさい怒らないで」程度の理解です。急激に身体を動かしてはいけない、ジャンプしてはいけない、室内での粗相は仕方ない事だ、なんて理解してくれません。

 

次に動物本人達の理解力を想像してあげます。ここも人間と決定的に違う面なので重要だと思います。人は脳に依存したQoLの維持が多く可能で「○○は身体に悪いから食べちゃ駄目だけど代わりに◇◇を食べようね。もう××には行けないけど代わりに室内でできる△△を楽しもう」と、理解と代案によるQoLの維持を志せます

しかし動物はもっと単純な思考なので、自分の置かれた状況はあまり理解しません。好きだった○○が食べられない、という事実だけが、その理由を理解されないままほぼダイレクトにQoLに関わります。××に行けないという事も、行かない事で得られる好影響を理解されないままネガティブな事実としてQoLに関わります。

彼らのQoLは単純思考で考えてあげてください。例えるなら3歳児が同じ状況にあったらなんと言うかです。3歳児だとある程度自分の感情は声に出してくれますが、それは「××に行きたい」「○○食べたい」という単純な不満だけでしょう。そしてこちらの説明や説得は理解されません。この状況からどこまで幸福度が維持できているか、ここからどこまで下がるか、これを考えてあげます。

 

例:我が家のイヌの安楽死までの工程

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我が家のゴールデンレトリバーは幸運なことにガンも重病もすることなく高齢化していきました。まぁ飼主が飼主なんで常日頃から触診されてる身で、良いフードを食べ、毎年の血液検査も欠かさなかった奴なんですが、それでもガン等が出なかったのは運が良かったです。

11歳になった頃、膝の十字靭帯の部分損傷をやってここから関節炎との闘いが始まります。行動力という面ではここから一気に老けていきますので、グラフで表すと③にあたります。

関節炎は時間と共に悪化していく、治らない症状です。なのでここからは体重維持、関節用フード、関節サプリの注射、痛み止め、抗炎症剤を遂次投入していく形でQoLの維持に努めました。まず改善策を1つ、それでもQoLの維持が心許なくなってきたら2番目の改善策を、そして3番目をと足していく形です。副作用の強い抗炎症剤等は後々に投入することでQoLを維持しつつ延命に努めました。グラフで表すと④ですね。

15歳3ヶ月辺りから急激な悪化が始まります。時折タイルの上で自力で立てなくなり、鳴き声を上げて助けを呼ぶようになった。対処療法の上限一杯までの鎮痛剤と抗炎症剤を駆使してQoLの維持に努めました。15歳5ヶ月、対処療法の上限一杯の投薬も虚しく、2日連続で数回自力で立てなくなりました。グラフで表すところの⑤に差し掛かったと察し、ここで医療観点から安楽死の日程を1週間後に決定しました。

 

安楽死の日程決断直後は感情が込み上げてきて泣き続けましたが、決定と共にある種吹っ切れた状態になりました。痛み止めのリミットを完全解除し副作用を気にしないまま基本量の2倍の投与により苦痛を和らげました(これでダメならモルヒネ系統の使用を考えてました)。

 

安楽死決定から2日経ち、関節の痛みはある程度和らいだものの今度は食欲不全と多飲が始まりました。今まで一度も拒食したことがないにも関わらずドライフードを食べ残しました。これは投薬による副作用の慢性腎不全の兆候だと明らかでしたが吐気も脱水も無かったので痛みの軽減を最優先として投薬を続行。栄養価も気にせず、茹でた鶏肉とお粥を主食に替えたところ食欲がバリバリ改善。以後食欲に問題は出ませんでした。グラフで表すと⑥です。

安楽死決定から6日目、尿漏れが始まります。ベッドの上から動きたくない/動けない状況なので自身の排泄で汚れることが起き始めました。グラフで表す⑦に差し掛かってる場面です。

安楽死決定から7日目、予定通り安楽死を決行。1週間の準備期間は心にかなりの余裕と覚悟を与えてくれたので自身でスムーズに処置ができました。

 

 

安楽死の利点・欠点

利点

  • 動物に優しい

特に苦痛を伴っている場合、その苦痛を無理に伸ばさなくて済む点が何よりも安楽死の意義として挙げられます。

  • 時間を決められる

「最期に立ち会う」を自然で行うことは中々難しいものです。家族の旅行や学校や仕事などで運悪く最期に立ち会えない、というのはペットにとっても残された家族にとっても悲しいものです。安楽死QoLの急激且つ危機的な低下で無い限り、ある程度の「予定」を立てられます。今日なのか、明日なのか、それともあと1週間?といった不安が生まれません。

  • やるべき事をやれる

予定を立てる上で、最期までにやっておきたかった事を消化する猶予が与えられます。親しい友人を訪ねるもよし、いつもの散歩コースをゆっくり周るもよし、いっぱい写真を撮るもよしです。治療面としても、「もう安楽死を決めたから副作用とか気にせず上限一杯の対処療法をぶち込もう」ができるのは地味に大事です。

「美味しいものを食べさせたい」という気持ちだけは気を付けてください、高齢のペットに安楽死前にケーキを食べさせて、その脂質量のせいで急性膵炎になり安楽死前に腹痛に苦しみつつ亡くなってしまったケースを診てます…。あくまでも高齢の子には相応のごはんにしてください。

  • 精神的な覚悟を決められる

安楽死の予定を決めた直後は精神的にとてもツラいですが、ここである程度の「悲しみ」を消化できるので実際に別れをいう当日の悲しみが少し軽減されます。

 

欠点

  • もっと長く生きられたのでは、という疑念

 他の方法があったのでは、という疑念を持つかもしれません。これに関しては獣医さんの言葉を全面に信用できるかどうかです。獣医が「これ以上は何もできない」といったら、そこが限界です。できうる限りのすべてを施した上での安楽死には後悔は生じません。

  • お金がかかる

安楽死を考えている段階でここを欠点と見る人はいないかと思いますが。

  • 自らが手を下していると錯覚する

何度でも言いますが、それが動物の為であるなら良い事なんです。欠点ではありませんが、一般の感覚だと「安楽死を選んだ = 殺す判断」と捉える方がどうしてもいます。また、周りからそう見られるのが怖いという方もいます。これも欠点ではありません、知識とQoLという未だあまり浸透していない視点の問題です。

 

 

まとめ:自分が勧める安楽死プラン

  1. ペットのQoLに常に注意を払うQoLを一番正しく判断できるのは飼主本人です。ペットを3歳児だと仮定して、ペットの気持ちを考えてあげましょう。それは単純思考です。お母さんとずっと一緒に居られるなら我慢できるとか考えてませんし、○○だから仕方ないとか、××だから諦めがつくとか、そういう思考も彼等にはありません。苦痛は苦痛でしか無いのです。
  2. 獣医師の言葉を信頼するQoLが許容範囲より下がった際、対処がこれ以上できずQoLを立て直す手段が無いという判断だった場合、これを理解しましょう。「やれることは全てやった」と自分で理解できれば安楽死は肯定的な良い処置になります
  3. 動物は死ぬという事実を受け入れる。時に命の引き延ばしは苦痛でしかありません。動物は死ぬときは死にます。そこを理解しましょう。これを受け入れられないと人はどこまでもエゴになります。動物の為の判断をしましょう。自分の為では駄目です
  4. 安楽死の予定日を立てる。「まだ元気だから」とその日その日で引き延ばし、結果的に大きな苦痛を与えて後悔する人を今まで何百と見ています。QoLが許容できないレベルに達したと判断したその日、そこからQoLは平均的に下がり続けます。家族と覚悟を決めて、最期に向けた準備を始めたら後戻りは駄目です。後戻りをすれば後悔します
  5. 泣く。泣いとけ。ここで泣いとけ。悲しみは時間でしか解決できないので、まず安楽死当日より前に悲しみを先払いしておきます。
  6. 最期に向けて、全力で後悔を無くす。写真でも散歩でも友人を招くでも一緒に寝るでもおなかに優しい御馳走を食べるでも良いです。とにかく「生きてる間にやっておきたかった」事を消化しましょう。「まだ元気だから」でアヤフヤにしてしまうとこれもまたアヤフヤになり、後悔の一つになります。
  7. 安楽死決行できれば最期まで立ち会ってほしいというのが獣医側の意見。自分をペットの立場において想像してほしい。数日間とっても楽しい時間を過ごし、家族の笑顔に囲まれ、苦痛もなく眠るように息を引き取る状況を。真夜中に痛み苦しむ中、パニック状態の一部の家族が泣き叫ぶ中で息を引き取るのとどちらが好ましいかを。想像してほしいんだ。

 

豪州のノネコ問題まとめ - ノネコの影響から駆除方法まで

2019年4月25日付で、ニューヨークタイムス紙がオーストラリアのノネコ200万匹駆除問題に関する記事を投稿し、これが数日後には日本語に訳され日本のニュースサイトに投稿、一部のノネコ問題に関心のあるユーザーの間で話題になってます。

ニューヨークタイムス紙のほうは流石大手といった感じにしっかりと問題点の細かい解説等を書いてあり視点の偏りが少ない良記事でしたが、いかんせん日本語訳の記事が意訳も多く誤解と不鮮明さを多く残す内容であり、他にこの問題に関する日本語記事が多くないため(実際は自分自身が2015年に別ブログで書いてたりしますが)、今回また新たに、現状の豪州におけるノネコ問題に関する動きをまとめます。

 

色々と感情面で賛否両論の起きやすい問題ですので、一科学者の端くれとして、事実には出来うる限り信頼性の高いソース(参考文献)も記載します。もし事実が虚構か疑問に思った場合はそちらの文献も参考にして精査してください(注:英語)。理系であればご理解いただけてると思いますがこの場合の文献を信頼性の高い順に並べるのであれば:

学術論文>政府管轄下の情報>ニュースサイト等≧個人の意見>陰謀論その他

となることは理解してください。ここは個人のブログではありますが学術論文等を参考文献として記載することで信憑性を出来る限り上げさせていただきます。

 

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Feral cat with galah, mounted specimen; https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Feral_cat_with_galah.jpg

 

ノネコとは何か

ノネコの定義から始めます。

ノネコ(Feral cat)とは自然環境において、ヒトとの共生や関わり、接触を一切必要とせず生活するネコであり、いわゆる野良猫や飼い猫とは一線を画す存在です。軒下や庭先に現れ、ゴミ箱を漁っているような町にいる野良猫は、人間社会の中で半自立生活を送る野良猫の位置づけですが、オーストラリアにおけるノネコはどちらかと言えばライオンやトラ、ヤマネコに近い存在だと認識してください。

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ノネコが暮らすアウトバックの環境。人も家畜も道もない未開地。©Lobster1 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Australian_Outback_west_of_Middleton_-_panoramio_(27).jpg

 

そして大事な部分として、オーストラリアには元々ネコが存在しなかった大陸である、という面です。オーストラリア大陸にネコが外来種として侵入したのが、ヒトと共にヨーロッパから入ってきたおよそ200年前(1)。最初は愛玩動物だったイエネコが野生化してノネコとして繁殖、現在では国土の99.8%を生息地としていると思われます(2)

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Assessing Invasive Animals in Australia (2008)

何故ノネコの存在が問題なのか

世界的に言えることで、外来肉食獣の捕食が直接的な理由でその土地の固有種が絶滅した例は多く存在しており、世界各国の「島」における鳥類・爬虫類・哺乳類の絶滅種のうち14%にネコは直接的な影響を与えたとされています(3)奄美大島のクロウサギ等の問題で馴染みのある人もいるでしょう。ここオーストラリアにおいても、キツネと共にノネコの存在が最低でも哺乳類20種絶滅に直接的な原因を与えたという研究結果も存在し(4)、これに鳥類、爬虫類、両生類や絶滅により引き起こされる二次的な生態系変化も考慮に加えるとノネコは絶滅を危惧される一部の固有種に対して膨大な影響力があるとされ、資料によっては現在124種以上の固有種がネコによって直接的に絶滅を危惧される状況にあるとされてます(5-8)。また、一部の固有肉食獣(主に爬虫類や鳥類)においてもノネコとの餌をめぐる競合が発生してしまうため、二次的な影響が出ることも懸念されます(9)

元々オーストラリアは特殊な環境で、大型肉食獣がほとんど存在しない大陸でした。そのような環境下に適応、進化してきた様々な固有種は何千何万年前から、大型肉食獣に対する防衛力を持っていません。そこに200年前から現れた外来種であるノネコが登場、増殖したことにより、捕食者に対して防衛力を持たない多くの小型哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類がノネコにより日々大量に捕食されてしまう。ネコが存在しなかった世界各国の島々でも同様の理由で問題となっていると推測されます。

ノネコ1500万匹によって捕食されているオーストラリアの小動物は1日7500万匹との概算する組織もある一方で(10)、数ヶ所で取られたノネコの棲息密度データから、豪州のノネコ生息数は雨季と乾季にその数が大きく影響されつつも、210~650万匹程度ではないかとの研究もあり(11)、現状では正確なノネコの生息数は詳しくわかっていません。

 

豪州のノネコ対策の目標

 政府は2020年までにノネコ200万匹の掃討を目標に掲げています(12)。勘違いされやすいんですが、これは2015年から2020年にかけて200万匹という数値で、これには毒餌以外にも銃殺やトラップ捕獲、譲渡等も含まれています。政府の態勢としてはこの200万匹の駆逐の中で

  • 5つの島でノネコの撲滅
  • 本土10ヵ所における囲い地(ネコの出入りを柵等で防いだ保護区)での撲滅
  • 1000万ヘクタール(参考:日本の全国土面積の1/4)の土地での駆除

を主目標としています。全体的な数の減少を目指しつつも、現実的に考えて本土全体のノネコの撲滅は現状では無理なので、もっと限定的な土地、つまりネコの入れない保護区や島々に焦点を絞った完全撲滅作戦を同時決行しているわけです。

 

今回の政府の対応には一部の地域において、将来的に使えそうな、より良い(効果的、実用的、福祉的)方法を模索する科学的実地検証の面も含まれてます(12)

等が行われています。検証結果によって、より人道的かつ効果的かつ正当性のあるノネコ対策案が生まれた場合、将来的に生かしていく方針です。

 

 

まとめると、

  1. 異なる土地において効果的にノネコ人口の制御・抑制・撲滅を行う
  2. 現状のノネコ人口抑制手段の効果改善
  3. 在来種の回復に有効な新しい手段の開発、維持
  4. 国民のノネコ対策への関心と支援を促し、猫飼育環境の改善

の4項目が主目標となります(13)。 言い換えれば今回の5年に渡る政府のノネコ対応案というのは、ただノネコをむやみに掃討するという意味ではなく、一部地域のノネコ撲滅による保護区の設立、現状のノネコ対応手段の改善、新手段の開発と改善等、ノネコ問題に対して一気に様々な分野への支援を行うという意味合いが強いです。

 

豪州のノネコ対策の政策原則

 政策原則、つまり根本的に守るべき法則として政府が挙げている3項目が

  • 人道的(Humane)
  • 効果的(Effective)
  • 正当性(Justifiable)

です(12)

全ての行動は効果的にノネコの数を減らすことを目標とし、全ての行動は豪州の在来種を守り、回復させることで行動に正当性を持たせなければならないとしています。

そして多分日本の皆々様が一番引っかかるであろう人道的という項目ですが、ノネコの処分方法に関しては現状出来うる限り苦痛を減らす努力をするという面の人道性が一つ、もう一つは在来種に対する人道性を考慮に入れた行動であることは強調します。

ノネコ対策を怠った場合、ノネコによって苦痛を受ける動物の数はノネコのそれを遥かに上回ることは科学的根拠が十二分に存在するため(3-10)、全体的な人道性は「在来種+ノネコ」の苦痛の両方を考慮した場合は対応という行動を起こしたほうが人道的という考え方です。多角的視点からモノを見ています。

 

動物福祉団体の見解 

RSPCA

RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)は世界的にも有名な動物福祉団体で、オーストラリアにおいても唯一、動物福祉問題に対して警察と共同行動が可能な非営利団体です。

RSPCAは豪州の外来生物駆除に対する見解は以下(14)

RSPCA Australia recognises the need to control introduced species, such as the fox, to reduce both environmental and agricultural impacts. However, we argue that the control methods used should be as humane as possible. The available evidence on the effect of 1080 on affected species indicates that it is not a humane poison.

要訳:オーストラリア動物虐待防止王立協会は、キツネ等の外来生物の駆除は、生態系や第一産業への影響を減らす目的で必要であると認識する。しかし、駆除の方法はできうる限り人道的に行うべきである。現状の科学的根拠において、1080(毒物の総称、後述)は非人道的な毒物である。

RSPCAは野生動物の間引きも外来種の駆除も基本的には必要時には人道的に行えば良い、というスタンスを貫いています。また、動物を扱う上での原則を記載するCode of Practice(CoP)の作成に参加しており、基本的にはこのノネコ用のCoP(17)を順守せよ、という立ち位置です。

 

PETA

もうひとつ、愛護団体の中ではかなり動物寄りのイメージのあるPETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)の見解。PETAは人類総ヴィーガン化を推奨するレベルで動物愛護を唱える団体ですが、そんな団体であっても言葉を濁しつつ:

Trapping and, if necessary, euthanising feral cats is the only way to take these animals out of the environment humanely.

トラップによる捕獲と、必要であれば安楽殺がノネコを生態系から取り除く唯一の人道的手段である。

と、渋々感満載ではありますがノネコの数を減らす政策に反対はしていません(15)。これはPETAであってもノネコによる野生動物と生態系への影響力は無視できないレベルで存在すると科学的見地から理解しているためです。尚、毒餌と銃殺には反対しています(15)。少し話はずれますが、PETAはTNR(Trap, Neuter, Release)よりも安楽殺を推奨している団体でもあります(16)

 

使用される駆除方法

トラップ

かご式トラップ

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©FelineAvenger - https://en.wikipedia.org/wiki/User:FelineAvenger

カゴ型のトラップの中に餌を仕掛けてノネコをおびき出し、捕らえます。捕らえる段階では基本的に殺さない為、標的を選べる点が有利で、人道的にも問題はありません。ただし人員を多く割く必要がある他、毎日の確認等が必要でありインフラの整っていないアウトバックでの使用は現実的ではありません。島や町など限定的なエリアで効果を発揮します。

総合評価(17)
人道性:良い
効果:あまり高くない
標的選択:良い
費用:あまり良くない

パッド付きトラバサミ

ノネコの行動域に、歯の部分にパッドを施したトラバサミを仕掛け捕らえます。警戒心が強く籠式トラップで捕らえられないノネコに対して使い道があります。人員を多く割く必要がある他、毎日の確認等が必要でありインフラの整っていないアウトバックでの使用は現実的ではありません。尚、歯の付いているトラバサミは豪州国内での使用が認められません。

総合評価(17)
人道性:場合によっては認められる 
効果:あまり高くない
標的選択:良くない
費用:あまり良くない

射撃狩猟

猫を銃で撃つという絵を想像すると抵抗を覚えますが、野生化している動物の駆除手段として最もポピュラーなのは万国共通。2015年度のノネコ駆逐数の概算が211,560匹とされていますが、このうち83%が銃による駆除であったという統計もあります(18)。人員が必要な方法なので人件費はかかりますが、島等の限定された場所で長期間に渡って投入することで効果を発揮します。

総合評価(17)
人道性:良い(PETAは容認せず15) 
効果:広域ではほとんど効果がない
標的選択:良い
費用:あまり良くない

フェンス

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©Northern Territory Government, Australia

猫を閉め出すフェンスを構築し、ノネコの往来を阻止、その後に内側のノネコを掃討します。特に限定された地域に棲息する絶滅危惧種を守る目的では効果を発揮しますが、大変な費用と時間がかかるため広域には使用できません。

総合評価(17)
人道性:良い 
効果:限定的
標的選択:基本的には良いが、在来種の往来に影響が及ぶ可能性がある
費用:非常に高コストで、良くない

毒餌

ERADICAT®

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©Department of Biodiversity, Conservation and Attraction, Gov. WA.

現在政府が唯一使用を認める既存の毒、1080(Sodium fluoroacetate)を使用した毒餌です。1080は豪州原産の植物が自己生成する毒素で、消化器官から体内にとりこまれるとミトコンドリア内でFluorocitrateに変化し、ミトコンドリアのTCA回路(クエン酸回路)を阻害します(19)。要約するとこの毒は、体内の細胞のエネルギー源を止めて、生命活動を停止させる、みたいに思って下さい。

カンガルー肉と鶏肉を使用したソーセージ状の肉の中央部分に1080を4.5mg注入して使用します(20)。この肉を毒と共に食べた標的は、経口摂取から数時間後に神経症状が始まり、40-80分後には失神、死に至ります(21-23)。1080自体は数週間でその毒性が失われ土に帰る他、自然界に存在する毒素なので環境面に影響は出ません(25)

 

この毒物が使われる大きな面として、豪州の、特に西部に棲息する在来種はある程度の耐性を持っていることがあります(24)。元々豪州西部の自然にある植物の毒素なので、この地に棲息する生物は口にしてしまう機会も多く、結果的に環境適応しており外来種に比べて毒に強いんです。

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外来種と在来種のLD50値(19)。西部に棲息する在来種は特に耐性が高い。

毒物の効果を計る際にはLD50(対象動物100匹中50匹が死ぬ毒の量)を使って比較します。ノネコの場合はLD50値が0.40mg/kgなので、これは5kgのノネコの場合、2mgの毒(1080)を摂取すると50%は死ぬ、ということになります。ERADICAT®には4.5mgの1080が含まれているので、ノネコの平均サイズを5kgと仮定した場合、毒餌1つを食べるだけでLD50値の2倍量の毒を摂取することになります。

一方で大型肉食獣で毒餌を丸呑みできるであろう在来種のローゼンバーグモニター(オオトカゲ)、完全に成長した雄で1.9kgと仮定した場合、LD50値に至る毒を摂取するには西部に棲息する個体では毒餌を99個、南部棲息個体であっても16個は摂取する必要があり、これは餌の散布密度や行動範囲から言っても非現実的な数値、となります。

 

ただし、毒餌は在来種の犠牲がゼロになるものでは決してありません。LD50値はあくまでも100匹中50匹が死ぬ毒量であり、100匹中1匹はLD50値よりはるかに少ない量の毒素で死に至ることもありますし、体重が1kg程度であり在来肉食獣のフクロネコ(Chuditch)は毒餌を2つ食べるだけでLD50値に達してしまう等、問題は残っています。

総合評価(17)
人道性:状況によっては良い(PETA, RSPCAは容認せず14-15) 
効果:あまり高くない
標的選択:在来種に影響が及ぶ可能性がある(特に西部以外の個体)
費用:非常に低コスト

Curiosity®

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PAPPカプセル(ピンク色)を中央に混ぜた干肉。ノネコ相手の場合はソーセージを使用

1080の非人道的な面を考慮して2016年に新たに野犬/キツネ用に認められた毒物、PAPP(para-aminopropiophenone)を使った毒餌です。ノネコ標的での使用は2020年までに認められるとされています。PAPPは体内に吸収されると血中のヘモグロビンを酸化しメトヘモグロビンに換え、酸素運搬を阻害、酸欠で死に至らしめます(26-27)。要約するとこの毒は、体内の酸素を無くすという意味では、安楽殺現場におけるガス室と似た形で生命活動を停止させる、みたいに思って下さい。

カンガルー肉と鶏肉を主に使用したソーセージ上の肉の中央部分にPAPP80mgを含んだ特殊なカプセル「Hard shell delivery vehicle(HSDV)」を中央部分に含ませて使用します(28-29)PAPP毒は対象動物にかなり人道的な死を与えられる毒で、初期症状から昏睡に至るまでが60分以内とされているほか、症状自体も酸欠症状なので直接的な痛みはあまり無いとされています(26-27)RSPCAはこの毒を現状の選択肢の中では一番人道的であり、毒使用の際にはPAPPの使用を推奨しています(14)。自然環境下では28日で毒性の>90%が失われ、環境に影響は起きません(26)

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外来種、在来種のPAPPのLD50値(30)。外来種にだけ特別効く毒ではない。

PAPPは人道的な毒で、基本的には外来種に効きやすく在来種にはある程度効きにくい特性はあります。が、一部の在来種と外来種の間には毒に対する耐性の顕著な差はない場合も存在します(30)
その問題を大きく打開する案が、毒餌の中のPAPPを包んでいるカプセル「Hard shell delivery vehicle(HSDV)」です。これは動物解剖学を応用したシステムで、ネコの奥歯は「切る」動作に長けており、肉を切って飲み込めるサイズにすることに特化した形に進化しているのに対して、豪州在来種の奥歯はすり潰す動作を含むことに着目しています(31)。直径4.7mm以下の「球状の硬い異物」を肉に忍ばせた際、在来肉食獣より大型であるネコはこれを吐き出すこと無く飲み込むのに対し、体格が小さく餌をすり潰す習性のある在来種の多くはこれを選りすぐり9割近くを吐き出します(31-32)。HSDVカプセルの有無でノネコが毒餌を敬遠することはありません(31-32)。また、このカプセルは餌の中央に置くことで、小型種や草食獣が餌の端を少し齧った程度では毒に届かない設計をしているほか、カプセルの色をあえて人工的なピンク色にすることで、鳥類の警戒心を煽り誤飲を極力避けるよう工夫がされています。

一方で、毒餌のソーセージを丸呑みできるような大型在来肉食獣、特にオオトカゲ系はPAPP毒に耐性も無いため被害に遭いやすいと懸念されています(30)

総合評価 
人道性:良い(14)(PETAは毒餌全般を容認せず15) 
効果:あまり高くない(17)
標的選択:在来種に影響が及ぶ可能性がある(31-32)
費用:非常に低コスト(30)

Hisstory®

これはERADICAT®とCuriosity®の中間案を取った毒餌で、現在はまだ実地試験運用段階です。含まれる毒はERADICAT®と同じく1080ですが、この毒をHSDVカプセルに含ませているので原理的にはCuriosity®と似ています。

Curiosity®に含まれるPAPP毒による被害が予想されるオオトカゲの生息地での使用(オオトカゲは1080毒に対しては強い耐性があるため安全性が高い(19))や、1080耐性はあまりないが小型種であるフクロネコの仲間が棲息する地域での使用が検討されます(33)

採用されれば「在来種は構造的に毒物の摂取が難しく、万一摂取してしまっても毒への耐性が高い」と、優れた毒餌になり、ERADICAT®の上位互換になると思われます。ただし標的である外来種への人道面ではPAPP毒が勝ります

総合評価(17)
人道性:状況によっては良い(PETA, RSPCAは容認せず14-15) 
効果:あまり高くない
標的選択:在来種に影響が及ぶ可能性があるが、従来より更に選択的
費用:非常に低コスト

 

各毒餌の使い分け方

これは個人的意見ですが、現状では使い分けが大切になると思います。

  • ERADICAT®は政府の承認が下り次第、上位互換のHisstoryに置き換え
  • 大型在来爬虫類が棲息する地域、かつ平均気温が高い→Hisstory使用
  • 大型在来爬虫類が棲息するが冬場は気温が下がる→冬にCuriosity、夏場はHisstory
  • 大型在来爬虫類が存在しない→Curiosity
  • 東部等、在来種の1080耐性があまり高くない→Curiosity
  • 現状の豪州という広い国土と急速な生態系への問題を考慮すると、空中散布による何かしらのノネコ対策は必要と考える
  • いずれにしても在来種のダメージがゼロになることはないので、将来的にはより人道的で正当性のある別方法によるノネコ対策に置き換えることが望ましい

 

目標達成を目指した未来の取り組み 

以下に豪州の目指すゴールと、そのゴールに向けてどういう取り組みを行い、正当性をどう評価するかをできるだけ簡潔にまとめます(13)。読み飛ばしてもらっても構いませんが、要は「めっちゃ色々考えて、慎重に、且つ現実的に行動を起こそうとしてるんだよ」という部分は理解してもらいたいです。

1、異なる土地において効果的にノネコ人口の制御・抑制・撲滅を行う

1.1 広域使用が可能なノネコ標的型の毒餌の開発をし、豪州全土で使えるようにする

1080毒を使ったERADICAT®の使用は、現状では在来種の毒耐性が比較的高いWA州の一部での使用に留めざるを得ない。より標的のみに影響があり、豪州国内の別地域でも使用が可能になり得る毒餌の開発と登録(Curiosity®、Hisstory®)を急務とする。一方で、毒餌の使用がノネコ対策の正答ではなく、並行してより実用的・人道的・効果的な広域対策案の模索を続けること。

1.2 新たなノネコ対策案の開発と登録

例えばネコ科特有のグルーミングを逆手に取った新たな対抗案の開発と試験、登録を目指す(例:ノネコを感知するとPAPPゲルを体表面に噴射する装置、等)。こうした対抗案は濃密な森林地帯や水源近く等、空中対策案の効果が限定される地域での活躍を期待する。また、絶滅危惧種の皮下や首輪に毒物入りカプセルを設置し、絶滅危惧種を好んで狩るノネコの対抗案にする等、科学的考慮にあたる案を出し可能性を調査をすること。

1.3 捕食者との関連性の研究を継続、他の捕食者の保護によるノネコ抑制力等を探る

ディンゴやキツネ、タスマニアデビル等はノネコを殺傷する能力がある他、フクロネコやオオトカゲはノネコの競合者となりうるため、これらの生物とノネコの生態学的関連性の研究を怠らず、よりよい生態系保全の方法を見出すこと。

1.4 他の環境変化要素とノネコの関連性の研究を続行する

農地化や山火事後の環境変化等、ノネコの行動にどのような影響を及ぼすか、行動学的研究を継続し、得られる知識をノネコ対策の強化に充てること。

1.5 ノネコ対策に必要な規模、費用、効果、持続可能性の研究を続行する

先々のノネコ対応策のために、ノネコ駆除案に求められる規模、費用、効果と持続可能性の明確な数値を求めること。

1.6 ノネコをおびき寄せる誘引剤の強化及び新開発の研究を続行する

生活圏が広く広域に分布しているノネコの観察や捕獲において、より効率が良く効果的な誘引剤は必要であり、これの強化及び新開発の研究を続けること。

1.7 新たな安楽殺方法の研究、及び現状にある手段の強化研究を行う

例えば獣医師や銃器が近くに存在しない場合でも人道的安楽殺が行える装置の開発や、低費用で簡単に扱えるノネコ監視装置の研究を行い、特に人口密集地から離れた集落等での使用を目指すこと。

1.8 生物学的な対策案、病原菌や薬学的去勢/避妊の研究を再調査する

ノネコ標的の病原菌に関しては20年以上前から研究が行われているが、現代科学の知識を駆使してこれを再調査すること。薬学的去勢/避妊/性選択による長期的な人口制御案を再調査し、可能性のある研究は軌道に乗せること。

1.9 CoPとSoPを新しくすること

前回のCoP制定から新技術が増えたことに伴い、CoPの再制定を急務とすること。

 

2、現状のノネコ人口抑制手段の効果改善

2.1 地主にノネコ対策の重要性を理解してもらい、土地管理の一部としてもらう

2.2 正しいノネコ対策の手法を様々なメディア等を用いて周知させる

ノネコ対策の最前線に立つ農家や僻地の住民に正しい知識をつけてもらうこと。

2.3 ノネコ対策が最優先される場所では、最大の効果が得られることを裏付ける

ノネコ対策の資金や人員が最優先で割かれる場所では、それに見合う最大限の生態学的結果が、市・州・国規模で得られることの裏付けをしっかりとすること(つまり利権で動いたりしないで、限られた運営費で最大限の効果を出すための検証をすること)

2.4 ノネコを侵略的外来種とすべての州で公式に認知させる

公式に認知することで、地主等が法律に順守する形でノネコの駆除を行えるようにすること。

3、在来種の回復に有効な新しい手段の開発、維持

3.1 本土から離れていて、有益な生態系を持つ島のノネコを掃討する

島の生態系を守り、必要であれば本土で絶滅が危惧される固有種の保全域として将来的に機能できるよう、こうした島のノネコの完全撲滅を目指すこと。ただし、ノネコ撲滅による生態系の二次的な問題が起きないか経過研究を怠らないこと。

3.2 ノネコがいない島でのバイオセキュリティーの設置、強化と維持を行う

ノネコがいない、もしくはノネコを撲滅した島におけるノネコ侵入阻止のためのセキュリティー項目を明確に設置し、それを維持すること

3.3 ノネコ駆除が追いつかないレベルで絶滅が危惧される固有種が存在する場所において、ノネコ除けのフェンスの設置と維持をする

本土において、ノネコ駆除を効率的に行っても絶滅が危惧される固有種がノネコが直接的な原因で減っている場合、フェンスの設置による物理的障壁を作ることを急務とすること。

3.4 ノネコの数と絶滅危惧の固有種の回復率の関係性を調べる手段を研究する。また、絶滅危惧の固有種の回復の手助けになる別手段の研究を行う。

ノネコが何匹以上存在するとその固有種の存続に影響を及ぼすのか、数値として理解し駆除対象数の算出等が出来るようになること。また、固有種の隠れ家の増設や番犬の使用等、殺処分以外でノネコから一部の固有種を効果的に守る方法を模索すること。

3.5 ネコが媒体の病気(例:トキソプラズマ)の有病割合、多種への感染能力(ヒト、家畜を含む)とその影響についての研究を続行する

ノネコによる公衆衛生や畜産業への影響を明確に把握すること。

4、国民のノネコ対策への関心と支援を促し、猫飼育環境の改善

4.1 飼い猫と野良猫がノネコになる割合を数値化する

外飼いの猫や野良猫がどれくらいの割合でノネコになるか、という科学的数値が存在していないので、これを探り、飼い猫と野良猫の、ノネコ問題における影響力を把握すること

4.2 民間にノネコによる生態系問題を周知してもらい、猫の正しい飼育の必要性を理解してもらい、室内飼育を推奨する

動物飼育の法制定は州政府に任されているため、豪政府としては猫の飼育法改善に法的措置はできません。が、一部地域では法的な措置が既に取られていて、SA州、TAS州、WA州、ACTではネコの去勢/避妊を法律で義務化、メルボルン周辺の一部地域ではネコの外飼いを法的に禁止したりと、動きは始まっています。個人的にはあと10年もするとかなり法整理が進むと思います。

 4.3 民間と協力し、野良猫が使用できるリソース(餌・水・隠れ家等)の撤去を促す

野良猫の数を減らし、飼い猫とノネコのより鮮明なボーダーを形成すること。 野良猫の福祉と効果の低さを配慮し、政府としてTNRは推奨しないこと。

4.4 広報を駆使して現状のノネコ問題を伝えること

僕も一肌脱ぎますよ豪政府さん…

 

最後に - 個人的感想とか

政府の動きについて

何かと誤解され叩かれ気味だったので今回この大学のレポートレベルに参考文献の多いブログ記事を投下する形となりましたが、ご理解頂きたい点として、政府も国民も、何も単純にノネコを殺したくてこういう取り組みをしているわけではないって部分です。多角的視点を持ち合わせて、ノネコの悲鳴の後ろ側にこだまする何万何億という在来種の悲鳴を考慮し、科学的見地から動かざるを得ないと判断して行動していることを強調させていただきたい。

我々は全知全能ではありません。全てを助けるのは無理です。小を切り捨てて大を助けるのが、現状できる最善手であると思います。

過去を責めるのも間違いです。そりゃあ欲を言えば「200年前にネコなんて放たなければ」とボヤきたくもなりますが、それを言って悔やんで、助かる命は無いんです。過去は学ぶためにありますが、過去を悔やんでばかりで一歩を踏み出さなければ状況は改善しません

 

現状で起こせる行動は以下の3つだと考えます:

  • 現状できうる手段を駆使してノネコに対抗しつつ、より理想的な策が開発されるまでの時間を稼ぐ
  • 倫理的により望ましいが効果が薄く時間がかかる手段を選び、手遅れになる
  • 唐突に全ての問題が一気に解決する明日が来ることを祈り、今日は何もしない

 

他国や自国内の国民からのバッシングに遭いつつも、今動かなければ取り返しがつかなくなると判断し、そして毒餌は最善ではないと認識し、より先々の事を考えて新しい手段の研究・開発・試験を潤滑に推奨/支援している豪政府を自分は評価します。

 

ノネコについて

自分もオーストラリアの獣医の端くれであり、「市役所のお仕事」を手伝う身です。ノネコの安楽殺には勿論既に沢山関わってきてますし、これからも関わり続ける身です。

個人的な経験則をいうと、豪州のノネコの1/3は完全に野生化しており決してヒトには慣れません。残りの1/3は時間をかければ慣れます。そして最後の1/3は割かし初期から人間を受け入れます。こうしたヒトに慣れることができるノネコ、特に仔猫ですね、これらはひたすら避妊手術をしてチップを埋め込んでから譲渡します。民間のボランティアからAWL、RSPCAといった大手の愛護団体まで、いつでもどこでも総出で譲渡しています。

感覚で言えばオーストラリアの飼い猫の98%が「ドメスティックキャット」、つまり雑種です。獣医やっていて未だにアメショーに出会っていないと言えば分かるでしょうか。豪州で飼育されている大多数のネコは譲渡出身です

それでも追いつかないレベルでノネコが存在してしまっており、増え続けているんです。広い国土と、「とても狩りが簡単な獲物」が溢れている国なんです。

 

だから物理的に限界があり、安楽殺をします。

安楽殺で心が痛まない獣医はいないです。少なくとも自分は痛みます。そして、ノネコであっても安楽殺を淡々と無心にやっていると勘違いされると悔しくて死にたくなります。そこは理解してください。

動物の命を助けるために獣医を志して、血反吐を吐いて英語と勉学に励み、受験戦争に勝ち、身体を椅子に縛り付けて大学の勉強をして、やっと認められて、獣医になってみれば命を奪う仕事をすることだってある。

 

それでも未来で2つの命が助かるのであれば、自分はノネコの恨みと自分自身の罪の意識を背負って、1つの命を絶ちます。

ここでやらなければ近い将来に3つの命が失われるから、今1つを切って2つを助ける。

更にずーっと先にある未来には、犠牲なく3つの命が助かる何かがあると信じながら。

 

日本のノネコ問題と比べて

日本にもノネコ問題が存在するのは知っています。自分が危惧するのは2つです。

  1. 日本のノネコ問題の尺度でオーストラリアのノネコ問題を批判
  2. オーストラリアのノネコ対策案を日本のノネコ問題で容易に肯定

このどちらも自分は間違っていると感じます。

 

まず1つ目ですが、日本のノネコ問題とオーストラリアのノネコ問題はスケール的にかなり異なるものであると認識してください。

 

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こういうヒトもいなければ道路もない、完全な未開の地に隠れて棲息するノネコが

 

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このアホみたいに広い国土全体に分布している状況です。

日本の尺度で、トラップを仕掛ければいいとか言っていられる状況でも土地でもないんです。トラップを仕掛けにいく交通手段も無ければ、クソ広いアウトバックの何処にトラップを仕掛ければいいかも分かりません。根本的解決案としてのTNRはまずそのTから破綻しています。

だから苦肉の策で空中散布による駆除方法を模索せざるを得ないのが現状です。将来的にはこれが病原菌散布になるかもしれないし、もし開発が上手くいけば経口投与の薬学的去勢/避妊薬になるかもしれません。が、駆除が必要である限り、スケールという根本的な問題はそう変わることはないと思われます。

 

そして第2の懸念、ですが、オーストラリアのノネコ対策案を日本のノネコ問題で容易に肯定してはいけません。日本では安楽殺をするな、という話ではありませんよ?状況によって安楽殺は必要であり人道的手段ですから日本も必要であれば行うべきだと思ってます。

自分が言いたいのは、安易にオーストラリアに習って毒餌を撒こうとか見当違い過ぎることを言ってはいけないという部分。日本は島国であり、人工物密集地帯が多い国です。ノネコの移動はそれだけでもかなり抑制されてます。固有種のイヌ科やネコ科も存在する国です。毒餌の散布よりもより人道的で実用的で正当性のある駆除手段があると思います。その辺は日本の生態系のプロにお任せするしかないんで素人は黙っておきますけどね。

 

ここ数日で色々な人の意見を聞いて思ったことは、とにかくもっと多角的視点を持つべきであること。これはノネコ駆除反対派にも賛成派にも言えることです。感情的になり科学を否定することも、科学だけを語り感情面や人道面を無視することも許されません。そしてこれは両天秤です、何もかもが完璧に丸く収まる答えは出ません。断言します。両方を最大限に高めた妥協点を見出すことが唯一できることです。

 

我々が扱っているのは動物であり、彼等を扱う際には感情を切り捨ててはいけないし、科学を無視してはいけないんです。

だから獣医ってのは科学を学んだ人間であるんだと、よく分からない着地点を見出してこのブログを終わります。

 

 

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Feral_Cat_(5573630708).jpg

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